Web 2.0の精神——AI時代に継ぐもの

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— 参加・分散・信頼といったWeb 2.0の精神を、AI時代にどう引き継ぐか —

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Kosuke Shirako

まえがき

 —この本を読もうかどうか迷っているあなたへ(2026年版)

この本はどんな人向けのもの?

この本の対象は、プロとしてWebやデジタル体験を制作している人(制作会社の一員、個人事業主、フリーランスを問わず)と、企業Webサイトやデジタルプロダクトのマーケティング・運用に携わっている人です。

2026年現在、AIがコンテンツ生成やユーザ体験の設計にまで関わるようになったいま、プロンプトエンジニアやAI活用を担当する方にも読んでほしいと思います。さらに、ブロックチェーンやNFT、DeFi、DAOといったWeb3の文脈でデジタル体験を設計している方にも手に取っていただきたい。この本が説く「データ」「ユーザ」「サービス」の考え方は、AI時代のプロダクト設計にも、分散型・トークン経済・オーナーシップを軸にしたWeb3の設計にも、そのまま通じるからです。

とくに、「自分は小規模なWebに関わっているから関係がない」と思う人にも読んでほしい。あなたの仕事にも、きっとこれから影響を与える話だからです。また、広い意味で、企業サイト・商用サイト・デジタルサービスにステークホルダーとして関わっている人にも読んでほしいと思います。

この本のだいたいの内容は?

この本は2006年に書かれました。当時、「Web 2.0」という言葉が一大潮流となり、ビジネスサイトの在り方が問い直されていました。

二十年後の2026年、私たちはAIの時代とWeb3の時代を同時に迎えています。ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル、生成AI、AIエージェント——技術の表層は大きく変わりました。一方で、ブロックチェーン、NFT、DeFi、DAO、分散型ストレージ(IPFS、Arweave)——中央集権的なプラットフォームに代わる「オーナーシップ」と「分散型」の価値が、デジタル経済の新たな軸として浮上しています。それでも、この本が提示する考え方の多くは、色あせていません。

「データ」「ユーザ」「サービス」を軸にビジネスを捉える視点。オープン性と協業の大切さ。50%の完成度でリリースし、ユーザを貢献者として迎え入れる姿勢。アテンション(関心)の獲得が最も重要だという認識——これらは、AIがコンテンツを生成し、体験を変形し、ビジネスモデルを書き換えつつあるいまでも、有効な枠組みです。さらに、Web3の文脈では「データのオーナーシップ」「トークンによるインセンティブ設計」「コミュニティガバナンス」といった新たな要素が加わり、本書のフレームワークはさらに拡張可能です。

そういう状況の中、Web屋(プロのWeb制作者、ビジネスサイトの運営者、AI時代のデジタルプロダクトづくりに携わる人、そしてWeb3・ブロックチェーンを活用したサービス設計に携わる人)は何をすべきなのか。この本は、その問いを考えるための土台を提供します。Web 2.0時代に書かれた本書のプランニング、運営、コストやリスクの管理についての考え方は、AI時代のWebサイト・デジタルサービスの設計にも、Web3の分散型アプリケーション(dApp)やトークン経済の設計にも、役立つはずです。

この本を書いたのは誰?(2006年当時)

この本の著者である中野 宗(なかのはじめ)は、東京・銀座にある株式会社アークウェブというWeb制作会社のプロデューサーでした。さまざまな顧客のWebサイト制作のほか、オープンソースの「Zen Cart日本語化プロジェクト」の企画・広報、ソーシャルブックマーク「Snippy」の企画、Web制作者の同業者団体「WebSig24/7」のモデレーターなどを務めていました。共著者の安藤直紀氏とともに、Web 2.0の潮流を実務の視点から読み解き、ビジネスサイトの未来を描きました。

2026年版まえがきについて

このまえがきは、2006年刊行の『Web屋の本』を、2026年のAI時代の読者に向けて再び手に取っていただくために書き換えたものです。本文は当時のままですが、思想的には古くない——その確信に基づき、現代の文脈から読み直すための入口として、この前書きを用意しました。

二十年という時間を経て、del.icio.usやFlickrは別の形に変わり、Blogosphereの中心はSNSやショート動画へと移りました。一方で、NFTやDAO、DeFiといったWeb3の仕組みが、コンテンツのオーナーシップやコミュニティのガバナンスに新たな選択肢をもたらしています。それでも、この本が問いかける「Web屋は何をすべきか」という問いは、いまも答えを待っています。AIとともに働き、Web3の可能性を探る私たちにとって、その答えを探す旅の一歩として、この本を手に取っていただければ幸いです。

2026年

Chapter 1:What Is Web 2.0 — Web 2.0をWeb屋的に読み解く(2026年版)

この章では、ティム・オライリーの著名な論文「Web 2.0とは何か」から、Web 1.0とWeb 2.0の違い、7つの原則といった基本的な概念を説明しながら、Web 2.0が持つWeb屋にとっての意味について考えます。2026年版では、AI時代とWeb3(分散型・トークン経済・オーナーシップ)の文脈からこれらの概念を再解釈し、その今日的意義を探ります。*

1.1 Webの進化のスピードはますます速まっている

2003年から2004年にかけてblogの爆発的な普及が始まり、2005年にはdel.icio.usやFlickr、Wikipediaなどの「Web 2.0」を象徴するWebサイトが脚光を浴びました。Ajaxが突如台頭し、RSSの普及が進み、Google MapsなどのサービスがAPIを続々と公開し、Remix・Mashupと呼ばれる手法での連携サービスが多数現われた年でもありました。

あれから二十年。2026年現在、私たちはさらに加速した変化の只中にいます。

2022年末、ChatGPTの登場は、大規模言語モデル(LLM)を一般ユーザの手の届くものにしました。それ以降、生成AIはコンテンツ制作、検索、カスタマーサポート、コーディング支援にまで浸透し、AIエージェントやマルチモーダルモデルが日常のデジタル体験を書き換えつつあります。同時に、ブロックチェーン、NFT、DeFi、DAO——Web3は「中央集権から分散型へ」「プラットフォームの囲い込みからオーナーシップへ」という新たな軸を提示しています。Web 2.0が「ユーザ参加」をキーワードにしたとすれば、AI時代は「人間とAIの協業」、Web3は「ユーザのオーナーシップとトークンによるインセンティブ」が新たな軸になりました。

それでも、Webの進化のスピードが速まっているという実感は、当時と変わっていません。むしろ、変化の周期は短くなっています。Web屋として、デジタルプロダクトの企画・構築に携わる者として、「今Webの先端で何が起きているか」という関心を持ち続けることの重要性は、2006年よりも増していると言えるでしょう。

1.2 「Web 2.0」の意味をWeb屋的に考え直してみる

2005年、BlogosphereではWeb 2.0についての意見やおしゃべりが多数飛び交いました。その頂点に位置するのが、オライリーメディアのCEOであるティム・オライリーが9月に公開した重要論文「Web 2.0とは何か」でしょう。Web 2.0 Conference 2005などを通じて勢いを得て、Web 2.0は当時のIT・Web業界で最大級のBuzz Wordとなりました。

2026年現在、「Web 2.0」という言葉そのものは、日常会話ではほとんど使われなくなりました。しかし、オライリーが捉えようとした「時流の深さ」と「関連する技術トピックの範囲の広さ」は、いまも有効な枠組みです。

当時、Webは1.0から2.0へ、つまり「Webインフラストラクチャの次世代型」にメジャーバージョンアップしつつあると言われました。いま私たちは、その延長線上に「AIが組み込まれたWeb」と「分散型・オーナーシップを軸にしたWeb3」を同時に経験しています。プラットフォームとしてのWeb、集合知の利用、データの価値、参加のアーキテクチャ——これらは、AI時代においてもプロダクト設計の土台として機能し続けています。Web3はさらに「データのオーナーシップ」「トークンによる価値の分配」「スマートコントラクトによる信頼の自動化」といった新たな設計原則を加えています。

この章での意味付けを踏まえ、後の章では「ビジネスサイト2.0」と「Web屋2.0」についての考え方を示します。2026年版では、AIが加わった文脈で、これらの概念をどう読み直すかを探っていきます。

1.3 Web 2.0は一過性の現象で終わるのか?

Buzz Word、Hypeと形容されることが多かったWeb 2.0。流行り言葉であれば廃れるのが宿命です。当時、Flickrやdel.icio.usがYahoo!に買収され、機能の進化が安定期に入ったことは、流行現象の沈静化を象徴しているとも言われました。

二十年後の答えは、こう言えるでしょう。

Web 2.0という「言葉」は廃れた。しかし、Web 2.0が指し示した「パラダイム」は定着した。

フォークソノミー(タグ付け)は、ハッシュタグやメタデータとしてSNSやコンテンツプラットフォームに浸透しています。APIによる連携は、クラウドサービスやAIの組み込みにおいて当たり前になりました。ユーザ参加型のコンテンツは、UGC(User Generated Content)として、TikTok、YouTube、X(旧Twitter)を支える基盤です。ロングテールは、サブスクリプションやマイクロペイメントの経済と結びついています。Web3においては、NFTによるデジタル資産のオーナーシップ、トークンによるマイクロペイメント、DAOによるコミュニティガバナンス——これらが「参加」と「価値の分配」の新しい形として定着しつつあります。

Web 2.0は一時の流行では終わりませんでした。その考え方は、形を変えながら、いまのデジタル体験の土台になっています。AI時代においても、「データ」「ユーザ」「サービス」を軸に考えるという本書のフレームワークは、色あせていません。

1.4 パラダイムとパラダイムシフト

先に結論を出してしまいますが、Web 2.0はWebの新しい「パラダイム(枠組み)」であり、当時起きていたのは「パラダイムシフト(枠組みの変化)」だったと考えられます。そして2026年、AIの普及は新たなパラダイムシフトを引き起こしつつあります。

1.4.1 パラダイム

パラダイムとは、ある時代において一般的な「価値観」や「ものの見方」のことで、科学史家トーマス・クーンが著書『科学革命の構造』で用いたことから定着しました。

Webの世界で言えば、「情報は専門家が作るもの」から「ユーザも参加して作るもの」への転換は、一つのパラダイムシフトでした。いま、「コンテンツは人間が作るもの」から「人間とAIが協力して作るもの」への転換が、新たなパラダイムシフトとして進行しています。

1.4.2 パラダイムシフト

パラダイムシフトとは「価値観の革命」であり、革命がもたらす「非連続的な局面」だということができます。

非連続的というのは、旧来の常識が通用しなくなるような状況です。歴史的にも、そのときにエスタブリッシュメントであった人、すなわち旧パラダイムに最もよくフィットしていた人ほど、誤った判断をしてしまうことがあります。

AI時代においても、同じことが起きうるでしょう。「AIは人間の仕事を奪う」と嘆くよりも、「AIとどう協業するか」を考えるほうが、新パラダイムへの適応につながります。

1.5 Web 2.0は本当にパラダイムシフトか

Web 2.0は本当にパラダイムシフトというほどのものか、という疑念を持つ人もいたでしょう。Webの世界にどっぷり浸かっている人ほど、新たな変革などにわかには受け入れがたいという傾向があります。

二十年の時間が、答えを出しました。

現在、SNS、動画共有、クラウドサービス、API連携、サブスクリプション経済——いずれもWeb 2.0が予見した方向性の延長線上にあります。ユーザ体験を高め、ナレッジシェアを円滑にし、コミュニケーションを深めるといった変化は、不可逆的に起こりました。

Webの行く末を決めるのは、ネットユーザたちです。そしてその多数派が、次世代型のWeb体験を支持する方向へシフトしていく中で、パラダイムは変わったと考えるのが妥当でした。同様に、AIがもたらす変化も、ユーザの受容と活用によって、不可逆的なものになっていくでしょう。

1.6 新たなパラダイムに適応すべき理由

ユーザの風向きが変わるのですから、ビジネスサイトもWeb屋も、新たなパラダイムへの適応をしっかりと考えていく必要があります。スポーツで言えば、ゲームのルールが変わる時代です。

ビジネスサイトは、日々新しいビジターを獲得し、コンテンツを利用してもらい、商品やサービスの魅力を伝え、最終的にはさまざまなコンバージョンを起こさせることが使命です。そうした成果をあげるためのルールが変わった——その認識は、AI時代においても変わりません。

むしろ、AIの登場によってルールはさらに複雑になりました。検索はAIが答えを直接返す方向に進み、コンテンツは生成AIが量産できるようになり、ユーザ体験はパーソナライズと自動化が当たり前になりつつあります。新しいルールの下での最適なやり方をいち早く模索することは、取り組むべき価値が高く、Web屋にとって合理的な行動と言えるはずです。

1.7 Web 2.0の定義とは

ティム・オライリーの「Web 2.0とは何か」から、Web 2.0の定義を見てみます。2026年現在、これらの原則は、AI時代のプロダクト設計にもそのまま通じる考え方として読み直すことができます。

1.7.1 Web 1.0とWeb 2.0の違いとは

Web 1.0とWeb 2.0を対比させた表からは、おもにこんなメッセージが読み取れます。

- 大量一斉配信からロングテール対応へ:DoubleClickからGoogle AdSenseへ。いまは、AIによるパーソナライズ広告がさらに進化しています。

- クローズドからオープンへ:OfotoからFlickrへ。いまは、APIだけでなく、AIモデルやデータのオープン化が議論されています。Web3では、オープンソースのスマートコントラクト、オンチェーンデータの透明性、分散型ストレージ(IPFS、Arweave)によるコンテンツの永続化が、オープン性の新たな形を提示しています。

- 専門家による編集から共同編集へ:Britannica OnlineからWikipediaへ。いまは、AIがコンテンツを生成・補助する時代です。

- タクソノミーからフォークソノミーへ:プロによる分類から、ユーザのタグ付けへ。いまは、AIによる自動タグ付けや分類も組み合わさっています。

- スティッキネスからシンジケーションへ:1サイトへの滞留から、サイトの枠組みを超えた連携へ。いまは、プラットフォーム横断的な体験が標準になりつつあります。

Web 1.0 と Web 2.0 の違いは、次のように整理できる。

Web 1.0 は、1つの、固有な、閉じた、スタティックな世界であり、プロフェッショナルによる管理が前提だった。一方、Web 2.0 は、多数の、遍在する、開かれた、ダイナミックな世界へと変わり、アマチュアの参加が前提になっている。

つまり、単一から多数へ、固有から遍在へ、閉鎖から開放へ、静的から動的へ、専門家中心から一般参加へ、そして管理から参加へと、Web のあり方が大きく転換したと言える。

2026年、この対比に「人間のみ」から「人間+AI」を加え、さらに「中央集権」から「分散型」を加えると、Web3時代を含めた現代的な図式になるでしょう。

1.7.2 オライリーによる7つの原則

オライリーの「Web 2.0とは何か」で挙げられている7つの原則を、2026年の視点で要約し直します。

1. プラットフォームとしてのWeb

Web 2.0は戦略アプローチ、マインドセット、技術などのミームを包括した概念です。データ管理、ロングテール対応といったシームレスなプラットフォーム時代の要件は、AI時代においても、むしろより重要になっています。AIは、プラットフォーム上で動く「サービス」として提供されることが一般的です。

2. 集合知の利用

Wikipedia、フォークソノミー、eBayのユーザ評価——ユーザの力を利用するだけでなく、それが有機的に成長するしくみ(「参加のアーキテクチャ」)を構築することがポイントです。AI時代では、ユーザの行動データやフィードバックが、モデルの改善に直結するという新たなループが加わりました。

3. データは次世代の「インテルインサイド」

サービスの核となるデータを所有することが重要である、という指摘は、AI時代においてさらに先鋭化しています。学習データ、ユーザ行動データ、ドメイン固有のナレッジ——これらは、AI時代の競争優位の源泉です。

4. ソフトウェアリリースサイクルの終焉

「永久のβ版」として、ユーザの動向を見てすばやい修正・機能追加を行うこと——この考え方は、DevOps、CI/CD、そしてAIモデルの継続的学習(MLOps)に受け継がれています。

5. 軽量なプログラミングモデル

「システムを疎結合する」「橋渡しに徹する」「Hackable、Remixableにする」——API経済、マイクロサービス、そしてAIのAPI化(OpenAI API、Anthropic APIなど)は、この原則の延長線上にあります。

6. 単一デバイスの枠を超えたソフトウェア

PCを超えた実用性——いまは、スマートフォン、ウェアラブル、車載、音声アシスタント、そしてAIエージェントが、シームレスに連携する世界になっています。

7. リッチなユーザ経験

AjaxがもたらしたリッチなUIは、いまやReact、Vue、そしてAIを組み込んだ対話型インターフェースに進化しています。チャットボット、音声対話、マルチモーダル体験——「誰も見たことがない」アプリケーションは、AIによってさらに多様化しています。

1.8 Web 2.0を象徴するサービスとは

2006年当時、Web 2.0を象徴したサービスたち。二十年後、それらはどうなったか。そして、いまの時代を象徴するサービスは何か。両方の視点からまとめておきます。

1.8.1 del.icio.us(そしてその系譜)

URL : https://del.icio.us/(当時)→ 現在はサービス終了

ジョシュア・シャクターが2003年に個人プロジェクトとしてはじめたソーシャルブックマークサービス。ソーシャルタギング、RSSフィード配信、APIの公開——Web 2.0的なプラクティスを体現していました。2005年12月、米Yahoo!に買収されました。

その後、del.icio.usは何度か買収・譲渡を経て、2017年にはPinboardに買収され、現在はサービスとしての姿を変えています。しかし、ソーシャルブックマークが切り開いた「ユーザによる分類」「トレンドの可視化」「APIによる連携」という考え方は、Pinterest、Raindrop.io、ブラウザのブックマーク同期機能、そして「保存」や「後で読む」を軸にした各種サービスに受け継がれています。

2026年の系譜:Pinterest、Notion Web Clipper、Raindrop.io、ブラウザ拡張による「後で読む」機能——「情報のキュレーションと共有」というコンセプトは、形を変えて生き続けています。

1.8.2 Flickr(そしてその系譜)

URL:  https://www.flickr.com/

カナダのルディコープが開設したオンラインの写真共有サービス。ソーシャルタギング、Tag cloud、DHTMLやFlashによる軽快なインターフェース、多数のメソッドが公開されたFlickr API——2005年3月、米Yahoo!に買収されました。

Flickrは現在もサービスを続けていますが、写真共有の主役はInstagram、Google Photos、TikTok(動画)などに移りました。それでも、「写真にタグを付け、共有し、APIで連携する」というモデルは、画像を扱うあらゆるサービスに影響を与えています。

2026年の系譜:Instagram、Google Photos、Unsplash、MidjourneyやDALL-E(生成AIによる画像)——「画像の共有と発見」は、AIによる生成・検索・レコメンドと結びついています。

1.8.3 Wikipedia(そしてその持続)

URL:  https://ja.wikipedia.org/

柔軟な共同編集システムであるWikiをエンジンとして構築されたオンライン百科事典プロジェクト。非営利団体であるウィキメディア財団によって運営され、誰でも執筆することができる——Web 2.0の「ユーザによる参加・貢献」「オープンデータ」を象徴する存在です。

2026年現在、Wikipediaは200を超す言語で利用され、いまも世界中のボランティアによって更新され続けています。ChatGPTをはじめとするLLMは、学習データとしてWikipediaを多用しており、Wikipediaのコンテンツは、間接的にAIの出力にも影響を与えています。専門家による査読を設けたNupediaが失敗し、オープンな共同編集のWikipediaが成功した——この対比は、いまも「参加のアーキテクチャ」の重要性を示す事例として有効です。

2026年の意義:Wikipediaは、Web 2.0の理念が長期的に持続しうることを証明した存在です。AI時代においても、信頼できる参照可能な知識基盤としての役割は、むしろ重要性を増しています。

1.8.4 Google Maps(そしてその拡張)

URL: https://maps.google.com/

Googleによるグラフィカルな地図検索サービス。2005年6月にAPIが公開されると、個人やビジネス系サービスなど多数のRemix・Mashupサービスが登場しました。良質でユニークなデータを公開することが提供元にさまざまなリワードをもたらす——Web 2.0時代のビジネスモデルを広く認知させたサービスです。

2026年現在、Google Mapsはナビゲーション、ストリートビュー、ローカルビジネス情報、リアルタイム交通情報などに進化し、APIは開発者向けに提供され続けています。地図データを軸にしたMashupの考え方は、位置情報サービス(LBS)、配車アプリ、デリバリー、AR(拡張現実)などに発展しました。

2026年の系譜:Google Maps、Apple Maps、OpenStreetMap、Uber、DoorDash、位置情報×AI——「データのオープン化と連携」という原則は、地図を超えたあらゆるドメインに広がっています。

1.8.5 Web3を象徴するサービスとは(2026年)

Web 2.0が「参加」と「オープン性」を軸にしたとすれば、Web3は「オーナーシップ」と「分散型」を軸にしています。

- Ethereum、Polygon、Base:スマートコントラクトを実行するブロックチェーン。DeFi、NFT、DAOの基盤。

- Uniswap、Aave:分散型金融(DeFi)。中央管理者なしで取引・貸借が可能。

- OpenSea、Blur:NFTマーケットプレイス。デジタル資産のオーナーシップと二次流通。

- ENS(Ethereum Name Service):人間が読める分散型ドメイン。ウォレットアドレスの可読化。

- IPFS、Arweave:分散型ストレージ。コンテンツの永続化、検閲耐性。

- Lens Protocol、Farcaster:分散型ソーシャルグラフ。プラットフォームに依存しないアイデンティティとコンテンツ。

Web3とWeb 2.0の接点:Web3のサービスも、「データ」「ユーザ」「サービス」のフレームワークで分析できます。オンチェーンデータ、トークンホルダーコミュニティ、スマートコントラクトによるサービス——形は変わっても、牽引力の考え方は通じます。

1.9 Web 2.0の背景—システムとマインド

続いて、Web 2.0が開花する以前の重要な伏流として、システム面とマインド面の2つの事柄を説明します。これらを知ることで、Web 2.0の原動力をより理解しやすくなるはずです。2026年現在、これらの伏流はオープンソース、クラウド、DevOps、そしてAI/MLのオープン化という形で、さらに拡張されています。

1.9.1 オープンソースとWeb 2.0

XOOPS、WordPress、NucleusといったオープンソースのCMSやblogツールの導入支援、カスタマイズなどは、当時Web屋のサービスとしてポピュラーになりました。オープンソースソフトウェア(OSS)とは、オープンソースイニシアティブ(OSI)が「9つの原則」に基づいて認定した60種類以上のライセンス(GPL、LGPL、MPL、BSDライセンスなど)のもとで開発・配布・利用されるソフトウェアのことです。「フリー」は「無料」でなく「自由」の意味合い——この思想は、2026年においても健在です。

オープンソースの立役者リチャード・ストールマン、エリック・レイモンドの『伽藍とバザール』——「はやめにしょっちゅうリリース、任せられるものはなんでも任して、オープンにする」というバザール型開発の考え方は、GitHub、オープンソースのAIモデル(Llama、Mistral、Stable Diffusionなど)、そして「オープンAI」を標榜する動きに受け継がれています。

2026年の視点:AI時代において、オープンソースの戦場はOSやWebサーバから、AIモデル、データセット、ツールチェーンへと移りました。Hugging Face、オープンウェイトモデル、オープンデータの議論——オープン性を巡る問いは、いまもプロダクトとビジネスの設計を左右しています。Web3では、オープンソースのスマートコントラクト(Uniswap、Aave等)、オンチェーンデータの透明性、フォーク可能なプロトコル——「オープン」は「検証可能」と「参加可能」を同時に意味するようになっています。

1.9.2 インフラとしてのLAMP・LAPP

Linux、Apache、MySQLまたはPostgreSQL、PHPの組み合わせは「LAMP」または「LAPP」などと総称され、Web 2.0サービスに必要な「ライトウェイトな開発・運用環境」として重要な役割を果たしました。これらの資源がプロプライエタリなものであれば、Web 2.0的サービスをリリースするのはずっと敷居が高かったでしょう。

2026年の視点:LAMP・LAPPは、クラウド(AWS、GCP、Azure)、コンテナ(Docker、Kubernetes)、サーバレス、そしてマネージドAIサービスに進化しました。インフラのコモディティ化はさらに進み、「構築」よりも「組み合わせ」と「設定」が中心になっています。オープンソースの思想は、クラウドネイティブなスタック(Kubernetes、Prometheus、Terraformなど)に受け継がれています。

1.9.3 ウォード・カニンガムのWiki

ウォード・カニンガムがコンセプトを発案し、初の実装(WikiWiki)を示したWikiは、誰でもWebブラウザから編集でき、容易な簡易記法を特徴とする小さなプログラムでした。その考えは広まり、Wikipediaを生み出し、Web 2.0の「集合知」「ユーザが貢献者」「オープンコンテンツ」を象徴する存在になりました。

2026年の視点:Wikiそのものは、Notion、Confluence、GitHubのWiki、そしてAIを組み込んだナレッジベース(社内FAQ、RAGシステム)に進化しています。「誰でも編集できる」「簡易記法」という思想は、コラボレーションツールやAIとの対話型編集に形を変えて生き続けています。

1.9.4 アジャイル開発手法「XP」のマインドとプラクティス

XP(エクストリーム・プログラミング)は、ウォーターフォール型の対極にあるアジャイル型開発手法の1つです。シンプルな設計、短いイテレーションで頻繁にリリース、ドキュメントよりも動く成果物を重視——「ソフトウェアリリースサイクルの終焉」「運用がコアコンピタンス」というWeb 2.0の要件と、XPは親和性が高いと言えます。

XPのコアな価値——「コミュニケーション」「シンプル」「フィードバック」「勇気(変化を受け入れる)」——これらは、Web 2.0時代のサービス提供者であれば持っておきたいマインドセットでした。

2026年の視点:アジャイル、DevOps、CI/CD、そしてMLOps(機械学習の継続的デプロイ)——「はやめにしょっちゅうリリース」する考え方は、AIモデルの継続的改善にも適用されています。変化が速い時代だからこそ、小さく早く、フィードバックを活かす——この原則は、いまも有効です。

1.9.5 プレWeb 2.0宣言としての「クルートレイン・マニフェスト」

1999年、クリストファー・ロックら4人がwww.cluetrain.com上に掲げた「クルートレイン・マニフェスト」。「市場とは対話だ(Markets are conversations)」という宣誓ではじまる95ヵ条のテーゼ。マスマーケティングから肉声による対話へ、宣伝から傾聴へ——企業と消費者の関係における本質的な変化を宣言した、ラディカルなアピール文でした。

Web 2.0がブームになったとき、「あぁ、クルートレインが宣言した時代がやってきたんだ」と感じた人も多かったでしょう。クルートレインは「プレWeb 2.0宣言」と位置付けるべき存在です。

2026年の視点:SNS、インフルエンサー、口コミ、レビューサイト——「市場とは対話だ」という原則は、いまや当たり前になっています。一方で、AIによる自動応答、パーソナライズ、生成コンテンツが増える中、「対話」の主体が人間からAIに移りつつある部分もあります。クルートレインが問いかけた「本音で話す企業」であることの重要性は、AI時代においても——むしろAIが介在するからこそ——より重要になっているかもしれません。

1.10 クルートレインに学ぶWeb 2.0企業のマインド

クルートレイン・マニフェストから、いくつか引用してみましょう。

- 「ハイパーリンクは階級制をくつがえす。」

- 「情報化された市場では、製品について、製造元の企業よりもはるかによく知られているし、いいことであろうと悪いことであろうとすべての人に伝わる。」

- 「オンラインマーケットがかつてテレビのコマーシャルを眺めていた市場と同じものだと思っているような企業はお笑いである。」

- 「既に、強引な売り込み口上や派手な宣伝文句を使っている企業の言葉は、誰にも聞こえていない。」

- 「賢い市場は、自分自身のことばで話す企業を見抜くであろう。」

- 「人間の声で話すには、企業はその社会の関心事を共有しなければならない。しかしその前に、まず社会の一員にならなければならない。」

「ハイパーリンクは階級制をくつがえす」——日本でも、大企業や官公庁のサイトの「リンクは不可」「リンクするには事前に許諾が必要」といったポリシーを巡ってしばしば騒動が起きました。Web 2.0では「パーマリンクが重要だ」と言われ、言及されなければ成功はなく、言及されるためにはオープンでなければならない、という論理が広まりました。

2026年の視点:リンクポリシーを巡る議論は形を変えつつも続いています。一方で、検索がAIの直接回答に移行し、「リンク」の価値が相対化される動きもあります。それでも、「オープンであること」「言及されること」「対話に参加すること」——クルートレインが説いた企業のあり方は、ブランド信頼やコミュニティ形成において、いまも有効な指針です。

1.11 クルートレインとWeb 2.0をつなぐものは「人」

クルートレイン・マニフェストはネット上で大きな反響を呼び、数千人がオンラインで署名するブームになりました。Web 2.0 Conference 2005のWikiに掲げられたキャッチコピーは「Web 2.0は人々でできている!(Web 2.0 is Made of People!)」でした。この2つは、まさに響き合うものではないでしょうか。

クルートレインは、Web 2.0の本質の1つが「人々のパワーの解放・顕在化」であることや、CGM・Blogosphereの爆発を予見していたと言えます。

2026年の視点:AI時代において、「人」の役割は変わりつつあります。コンテンツを生成する主体にAIが加わり、対話の相手がAIになることも増えました。それでも、ビジネスの目的は「人」にあり、プロダクトの価値は「人」が決めます。AIは道具であり、その使い方を決めるのは人です。「Web 2.0は人々でできている」——この原則は、AIと協業する時代においても、プロダクトと組織の設計の根幹に据えておくべきでしょう。

1.12 なぜ今、Web 2.0が一大潮流となったのか

1.12.1 クルートレインが予見し、オープンソースが準備したもの

クルートレイン・マニフェストは、誇大な宣伝で本音を隠し、ユーザの声に耳をふさぎ続ける企業はやがて滅びるだろう、と予言していました。当時はまだ、消費者発のコンテンツの力は弱く、blog・CMSの強力なフォーマットも認知されていませんでした。CGMの驚異的な成長によって、ロックらが予見した世界は実現することになりました。

オープンソース運動は、Web 2.0サービスを開発するためのツール群をLAMP・LAPPというかたちでコモディティ化しました。オープンスタンダード、オープンコンテンツといった成果が、RSSなどのシンジケーション技術の普及を得て、「プラットフォームとしてのWeb」の登場を促進しました。

2026年の視点:オープンソースが準備したものは、クラウド、コンテナ、そしてオープンなAIモデルへと発展しました。クルートレインが予見した「対話する市場」は、SNS、レビュー、インフルエンサー経済として実現しています。AI時代において、次の伏流は「オープンなAI」「データの民主化」「人間とAIの協業の設計」にあると言えるかもしれません。Web3は「データのオーナーシップ」「トークンによる価値の分配」「DAOによるガバナンス」という伏流を加え、中央集権的なプラットフォームに代わる選択肢を提示しています。

1.12.2 CGM・BlogosphereがWeb 2.0を育んだ

Web 2.0が大流行するには、CGM・Blogosphereの勃興が大きな役割を果たしました。価値ある情報から他愛のないおしゃべりまで、ユーザが紡ぎだすコンテンツであればなんでも流通させるBlogosphere、RSSフィードなどのメタデータが整ったことで、「Webは次世代へと進化する」という認識が多くのネットユーザによって共有され、クリティカルマスを超えたのです。

2026年の視点:Blogosphereの中心は、X、Instagram、TikTok、YouTubeなどに移りました。RSSは一般ユーザには浸透しませんでしたが、「ユーザがコンテンツを生み、流通させる」という構造は、むしろ拡大しています。さらに、AIがコンテンツを生成・補助するようになり、CGMとAIGC(AI Generated Content)が混ざり合う時代になっています。Web 2.0を育んだ「参加のアーキテクチャ」は、AI時代において「人間とAIの協業のアーキテクチャ」へと進化しつつあります。

1.13 Web 2.0を巡る批判の検証

Web 2.0にはさまざまな批判がありました。ここでは、典型的な批判に対して、Web屋としてのプラグマティックな見方を示し、2026年視点で振り返ります。

1.13.1 Web 2.0を巡るFAQ的問答

「Web 2.0は流行り言葉に過ぎない」という意見

二十年の時間が答えを出しました。フォークソノミー、API、UGC、ロングテール——Web 2.0が指し示したパラダイムは定着しました。言葉は廃れても、考え方は生きています。

「Web 2.0にはビジネスモデルがない」という意見

「Web 2.0を標榜するベンチャー企業」と「次世代型インフラとしてのWeb 2.0」を混同した意見でした。SNS、動画共有、サブスクリプション、広告——いまのデジタル経済は、Web 2.0が予見したビジネスモデルの延長線上にあります。

「Web 2.0はバブルで、もうすぐはじける」という意見

2005年頃、「Bubble 2.0」という論調もありました。しかし、API公開、Remix・Mashup、Ajax、RSS、SNS——それらによってWebは進化し、人々はさまざまな便益を得ました。バブル的な過熱はあったにせよ、パラダイムシフトそのものは実現したと言えるでしょう。

1.13.2 論客ニコラス・カーのWeb 2.0批判

ニコラス・カーの「Web 2.0に道徳を持ち込むな」という批判は、Web 2.0が思い描く世界はユートピア的であり、「集合知」や「ユーザ参加」の負の側面を見ていない、というものでした。「アマチュアを崇めまつり、プロフェッショナルを信じない」——確かに、普及のフェーズではプロフェッショナルの出番が増えてくる、という指摘にはうなづける点がありました。

2026年の視点:AI時代において、同様の批判が「AI楽観主義」に向けられています。AIがもたらす便益と、誤情報、バイアス、雇用への影響、著作権問題——負の側面を見ずにAIを礼賛することへの警鐘は、カーのWeb 2.0批判と響き合います。Web屋として、便益とリスクの両面を踏まえたプラグマティックな姿勢を持つことは、いまも大切です。

1.14 もしWeb 2.0が流行り言葉に終わったとしても

Web屋にとって大事なのは、Web 2.0が一時の熱狂で終わったとして、「われわれが仕事として企画提案・構築・運用するWebサイト」と「その先にいるエンドユーザ」が退化してしまうのか、という点でした。

二十年後の答えは、明確です。退化していません。

1.14.1 Blogosphereは縮退するだろうか

Web 2.0という言葉が消え去っても、コミュニケーションのインフラとして成長し続ける——当時の予測は正しかったと言えます。Blogosphereの中心はSNSや動画プラットフォームに移りましたが、ユーザがコンテンツを生み、流通させる構造は拡大しています。RSSは一般ユーザには浸透しませんでしたが、API、Webhook、フィード——メタデータの流通は、形を変えて続いています。

1.14.2 ロングテールは縮むだろうか

Blogosphereは、eコマースにおけるロングテール、ナノ経済などを促進するインフラでもありました。ネットが取り込むユーザの嗜好はますます多様化し、ロングテール対応は加速こそすれ、後退していません。サブスクリプション、マイクロペイメント、ニッチ市場向けサービス——ロングテールの考え方は、いまも有効です。

1.14.3 RemixやMashupサービスはなくなるのだろうか

Remix・Mashupでユーザを味方につけ、成功するビジネスサイトはますます増えました。API経済、クラウドサービスの連携、AIのAPI化——「組み合わせによる革新」という原則は、2026年においても、むしろより強く機能しています。

1.14.4 ユーザは「Web 1.0」的なサービスに満足するだろうか

「ユーザ参加」の楽しさ、「集合知」を活用した体験、スムーズな操作性のアドバンテージを一度味わったユーザは、もう旧来のサービスに戻ることはない——当時の指摘は正しかったと言えるでしょう。

2026年の視点:いま、ユーザは「AIとの対話」「パーソナライズされた体験」「生成されたコンテンツ」にも慣れつつあります。一方で、NFTやトークンによる「オーナーシップ」、DAOによる「コミュニティガバナンス」を求めるユーザも増えています。次の世代のユーザは、AIなしのサービスを「物足りない」と感じるかもしれません。同様に、データの囲い込みやプラットフォーム依存を「古い」と感じるユーザも出てきています。だからわれわれも変化に身を投じ、マインドやスキルの変革を怠らず、AI時代かつWeb3時代のWeb屋として、ユーザとともに進化していく必要があります。

Chapter 2:ビジネスサイト2.0 — 企業・商用サイトのWeb 2.0対応(2026年版)

この章では、「ビジネスサイト2.0」の可能性について考えていきます。ビジネスサイト2.0とは、Web 2.0サービスの成功要因を適用することで、次世代型ビジネスモデルを実現する企業・商用サイトのことです。2026年版では、当時の巨大ネット企業のその後を振り返りつつ、「データ」「ユーザ」「サービス」というフレームワークがAI時代においても有効であることを示します。さらに、Web3の観点から、DeFi、NFT、DAOといった分散型ビジネスモデルと、従来型ビジネスサイトの接点を探ります。

2.1 ビジネスサイト2.0を考えるフレームワーク

ビジネスサイト2.0を考える道筋として、まず当時のGYM(Google、Yahoo!、Microsoft)、Amazon、eBayというWeb 1.0時代からの巨大ネット企業の適応戦略に注目しました。続いて、WSFinder.comによるWeb 2.0時代のネット企業の分類、そして「データ(D)」「ユーザ(U)」「サービス(S)」という3つの差別化要素による分析を試みました。

2026年の視点:二十年後、このフレームワークは依然として有効です。ただし、プレーヤの顔ぶれは大きく変わりました。Yahoo!の影響力は大きく低下し、Amazon、Google、Microsoft、Meta、Apple——いわゆるビッグテックがデジタル経済の中心にあります。さらに、AI時代においては「データ」の定義が拡張され、学習データ、ユーザ行動データ、生成コンテンツが競争優位の源泉となっています。Web3の観点では、Uniswap、OpenSea、ENS、Lens Protocolといった分散型プロトコルが、「データのオーナーシップ」「トークンによる価値の分配」「コミュニティガバナンス」という新たなビジネスモデルを提示しています。本章では、当時の分析を振り返りつつ、2026年視点(AI×Web3)で再解釈します。

2.2 ビッグプレーヤー—GYM、eBay、AmazonのWeb 2.0対応とは

(そして2026年、彼らはどうなったか)

Web 2.0で活気付いたのはベンチャー企業だけではなく、IT業界の巨人GYMや、Amazon、eBayなどのWeb 1.0時代の勝者も、自らのビジネス構造へのインパクトを察知し、敏速に適応戦略を取っていました。

2026年の視点:当時の「敏速な適応」が、その後の二十年を決めました。適応した企業はさらに大きく成長し、適応が遅れた企業は衰退しました。以下、各社のその後を簡潔にまとめます。

2.3 Google — Web 2.0の正統な担い手として

(そして2026年:GoogleからAlphabetへ、AI時代の覇者へ)

ティム・オライリーは「Web 2.0とは何か」の中で、Googleを「Web 2.0の標準的な担い手」と呼びました。2005年、GoogleはWeb 2.0の熱狂の中で最も機敏に動き、あらゆるネットユーザの関心を捉え続けました。

Google Maps、Google Earth、Google Analytics、Gmail、Google Calendar、Google Base、Google Page Creator——いずれも、プラットフォームとしてのWeb、データの価値、リッチなユーザ体験を体現していました。

2026年の視点:GoogleはAlphabetの傘下となり、検索、広告、クラウド、そしてAIにおいて最大級のプレーヤの一つです。Google Mapsはナビゲーション、ローカルビジネス、ストリートビューに進化し、APIは開発者向けに提供され続けています。Gmail、Google Workspaceはビジネスツールの標準の一つになりました。そして、Gemini(大規模言語モデル)の投入により、検索はAIによる直接回答へと進化しつつあります。Web 2.0が予見した「プラットフォームとしてのWeb」は、いま「AIを組み込んだプラットフォーム」へと進化しています。

2.4 Yahoo! — Webデベロッパへの接近を図る

(そして2026年:買収の歴史と衰退)

当時、Googleの急追の前にじりじりと後退し、「レガシーなネット企業」というレッテルを貼られることも増えてきたのがYahoo!でした。しかし、Yahoo! Maps API、Yahoo! Developer Network、Yahoo! User Interface Library、Flickr・del.icio.usの買収など、開発者コミュニティへのコミットは盛んでした。

2026年の視点:Yahoo!は、Verizonによる買収(2017年)、その後Apollo Global Managementによる買収(2021年)を経て、かつての影響力は大きく低下しました。FlickrはSmugMugに売却され、del.icio.usは何度か買収・譲渡を経て、サービスとしての姿を変えています。Yahoo! Japan(現LINEヤフー)は、LINEとの経営統合により、日本国内では独自のポジションを維持していますが、グローバルでの「Yahoo!」の存在感は薄れました。適応の遅れが、二十年の格差を生んだ事例と言えるでしょう。

2.5 Microsoft — ついにオープンプラットフォームに参入

(そして2026年:クラウドとAIで復活)

当時、Microsoftは「Windows Live」「Office Live」という2つのオンラインサービスを発表し、広告収益によるサービスモデルへの転換を示しました。レイ・オジーの「インターネットサービスの破壊力」、ビル・ゲイツの「インターネット・ソフトウェア・サービス」というメールは、ソフトウェアからサービスへの流れに乗る決意を示していました。

2026年の視点:Microsoftは、Azure、Office 365(現Microsoft 365)、Microsoft Teams、そしてOpenAIへの投資とCopilotの統合により、クラウドとAIで大きく復活しました。オープンソースへの積極的な関与(GitHub買収、VS Codeなど)も、当時の「オープンプラットフォームへの参入」の延長線上にあります。Web 2.0が「ソフトウェアからサービスへ」と言った転換は、Microsoftにおいて最も劇的に実現したと言えるでしょう。

2.6 eBay — Skype買収でECのバリューチェーンの強化

(そして2026年:Skypeは手放し、ECは継続)

eBayは2005年9月、Skypeを買収しました。ECの成功には売り手と買い手の間の素早いコミュニケーションが不可欠であり、決済(PayPal)、通信(Skype)を含めたバリューチェーンの強化が図られました。

2026年の視点:eBayは2009年にSkypeの過半数株を売却し、2011年にはMicrosoftがSkypeを買収しました。PayPalは2015年に分割され、独立した決済企業として成長しています。eBay自体はECプラットフォームとして継続していますが、AmazonやEtsy、Shopifyなどの台頭により、相対的な存在感は変化しています。バリューチェーンの強化という戦略は正しかったものの、Skypeの買収はシナジーを十分に発揮できなかったと評価されることが多いです。

2.7 Amazon — オープン性とユーザ参加で成長を遂げる

(そして2026年:EC、クラウド、AIの巨人へ)

Amazonは、ユーザによる商品レビュー、Amazon Associates、Amazon Web Servicesを早くから公開するなど、ライバルに先駆けてつねにオープンにすることで成長してきました。A9、Alexa、Amazon S3、Amazon Mechanical Turk——いずれも革新的な試みでした。

2026年の視点:Amazonは、EC、AWS(クラウド)、Alexa(音声アシスタント)、Amazon Prime、そして生成AIへの投資を組み合わせ、デジタル経済の巨人の一つです。AWSはクラウドインフラの最大手の一つとなり、Bedrockを通じてAIモデルを提供しています。Amazon Mechanical Turkは、AIの学習データ作成に使われる「人手」のマーケットプレイスとして、いまも存在しています。オープン性とユーザ参加——この原則は、Amazonの成長を支え続けています。

2.8 「ビジネスサイト2.0」とは

パラダイムが変わる時代はビジネスサイトも速やかに変わるべきです。その中身をもう少し考えてみます。

2.8.1 Web 2.0がビジネスサイトに与えるインパクトは

リッチなユーザインターフェースを持つ、ユーザ参加型のサイトが話題になるにつれて、従来型のスタティックなビジネスサイトは「つまらない」と思われ、徐々にトラフィックを失う怖れがありました。BtoCサイトなど、すでにコミュニティ的な仕掛けを持っているサイトであれば、Web 2.0的な「参加のアーキテクチャ」を活用することはリテンション・マネジメントとしても有効でした。

2026年の視点:この指摘は、SNS、動画、パーソナライズ、そしてAIが組み込まれた体験が標準になったいま、さらに先鋭化しています。スタティックなサイトは、検索結果でもAIの回答でも、露出しづらくなっています。ユーザ参加、パーソナライズ、AIによる対話——ビジネスサイトは、これらの要素を組み合わせた体験設計が求められています。

2.8.2 すべてのビジネスサイトが変わるべきなのか

自社・自サイト独自の提供価値(バリュープロポジション)を見つけるためには、試行錯誤を繰り返す必要があるはずです。そのためには、すぐにでも模索をスタートすべきではないでしょうか——当時の問いかけは、いまも有効です。

2026年の視点:すべてのビジネスサイトが同じようにAIを導入すべきか、という問いも同様です。答えは「自社のバリュープロポジションに応じて」です。ただし、変化のスピードは当時より速い。模索をスタートする時期を先延ばしにすることのリスクは、二十年でより大きくなっています。

2.9 Web 2.0時代の企業—データとサービスを軸に

WSFinder.comの「Web 2.0世界の地図」では、ネット企業を「データサイロ」「Webサービスプロバイダ」「データサイロアグリゲータ」「Webサービスアグリゲータ」という4つのプレーヤに分類しました。

2.9.1 データサイロ

オリジナリティが高いデータを作り出し蓄えているが、外部向けに公開する意思はないネット企業。Match.com、Career Builder、ぐるなびなどが例でした。

2026年の視点:データサイロは、いまも存在します。ただし、AI時代において「データを囲い込む」ことのリスクは高まっています。オープンデータ、API、データの流通——データを活用可能な形で提供することが、競争優位につながるケースが増えています。Web3では、オンチェーンデータの透明性、IPFSやArweaveによる分散型ストレージ、ユーザが自身のデータを保有する「セルフソブリン・アイデンティティ」——データの囲い込みに代わる選択肢が登場しています。

2.9.2 Webサービスプロバイダ

所持するデータとそれを利用するためのWebサービス・APIを進んで提供しているネット企業。Google Maps、eBay、Flickr、ヤフー、はてなが例でした。

2026年の視点:API経済は拡大し、クラウドサービス、AIのAPI(OpenAI API、Anthropic API、Google AI APIなど)が標準になりました。Webサービスプロバイダのモデルは、AI時代において「AIをサービスとして提供する」という形に進化しています。Web3では、スマートコントラクトが「プログラム可能なAPI」として機能し、Uniswapの流動性プール、Aaveの貸借プロトコル——中央管理者なしでサービスが提供されるモデルが確立しています。

2.9.3 データサイロアグリゲータ

複数のデータサイロを統合し、統一感のあるサービスとして提供しているネット企業。Oodle、Indeed、Eventful、NAMAAN、ジョブエンジンなどが例でした。

2026年の視点:アグリゲーションは、検索、比較サイト、価格比較、求人検索など、いまも重要なビジネスモデルです。AIによる検索の進化や、RAG(Retrieval Augmented Generation)のような技術は、アグリゲーションの新しい形と言えるでしょう。

2.9.4 Webサービスアグリゲータ

外部のデータサイロ、WebサービスをMashupしてサービスを提供しているネット企業。Google Mapsと天気情報のMashup、Housing Maps、EVMapperなどが例でした。

2026年の視点:Mashupの考え方は、マイクロサービス、API連携、AIの組み合わせ(エージェント、複数モデルの組み合わせ)に発展しています。外部サービスを組み合わせて新たな価値を生む——この原則は、AI時代においても有効です。

2.10 「データ」と「アグリゲーション」によるビジネスシナリオ

①「データ」を元手に「Webサービスプロバイダ」になる

②外部のデータサイロやWebサービスをアグリゲーションするサービス提供者になる

この2つのシナリオは、いまも有効です。

2.10.1 「データ」は重要だが

オライリーは「データは次世代のインテルインサイド」と言いました。データの所有者となることが重要だ、という指摘です。また、データを所持していない企業は、①最初に十分な数の「ユーザ」を獲得する仕組みを作る、②その「ユーザ」自身の情報を「データ」としてサービスに利用する——というオプションを示しているのです。

2026年の視点:AI時代において、「データ」の重要性はさらに増しています。学習データ、ユーザ行動データ、ドメイン固有のナレッジ——これらは、AIの性能と差別化を決める要因です。データを持たない企業は、パブリックなモデルやデータを活用するか、ユーザを獲得してデータを蓄積するか、のいずれかの道を選ぶ必要があります。

2.11 成功要因は「データ」「ユーザ」「サービス」だ

Web 2.0サービスの差別化要因を「データ」「ユーザ」「サービス」の3つにまとめる——この枠組みは、2026年においても有効です。

2026年の視点:AI時代において、この3つは次のように解釈されます。Web3の観点を加えると、さらに拡張されます。

- データ:学習データ、ユーザ行動、ドメイン固有のナレッジ。AIの性能とパーソナライズの源泉。Web3では、オンチェーンデータ、NFTのメタデータ、分散型ストレージ上のコンテンツ——「誰がデータを保有するか」が設計の要になります。

- ユーザ:ユーザの参加、フィードバック、ネットワーク効果。AIの改善ループとコミュニティの形成。Web3では、トークンホルダー、DAOの参加者、NFTのオーナー——「インセンティブ設計」と「ガバナンスへの参加」がユーザ牽引の新たな形です。

- サービス:体験の設計、API、AIの組み込み。差別化された価値の提供方法。Web3では、スマートコントラクト、dApp、トークン経済——「信頼の自動化」と「価値のプログラム可能な分配」がサービスの新たな軸です。

2.12 「データ」「ユーザ」「サービス」によるネット企業分析

当時、『Business 2.0 Magazine』の「The Next Net 25」を、「データ」「ユーザ」「サービス」の3軸で分析しました。Digg、Last.fm、Newsvine、TagWorld、YouTube、Bloglines、Eurekster、Simply Hired、Technorati、Trulia、Wink、Fonality、JotSpot、37Signals、Writely、Zimbra、Brightcove、Salesforce.com、Six Apart——いずれも、当時のWeb 2.0を代表するサービスでした。

2026年の視点:これらのサービスの多くは、買収、統合、衰退、あるいは形を変えて存続しています。

- Digg:買収後、Redditのようなソーシャルニュースの主役は移った

- Last.fm:CBSに買収され、音楽ストリーミングはSpotify、Apple Musicが主流に

- YouTube:Googleに買収され、動画共有の最大手に成長

- Writely:Googleに買収され、Google Docsに

- Technorati:ブログ検索の主役は、SNSや検索エンジンに移った

- Salesforce.com:企業向けCRMの巨人として継続、AI(Einstein)を統合

- 37Signals(現Basecamp):Basecampは継続、Ruby on Railsの開発元としても影響力を持つ

重要なのは、個々の事例ではなく、フレームワークそのものです。「データ」「ユーザ」「サービス」の3軸で分析する——この考え方は、TikTok、Notion、Spotify、Stripe、OpenAI、Hugging Faceなど、2026年の有望企業を分析する際にもそのまま使えます。

Chapter 3:ビジネスサイト2.0 — アーキテクチャと実装で考える(2026年版)

この章では、Web 2.0サービスの成功要因の分析をふまえ、「ビジネスサイト2.0」の実現方法について考えます。「データ」「ユーザ」「サービス」をビジネスモデルに必要なアーキテクチャと捉え、そのコンセプトに従った具体的施策(=「実装」)を考えていきます。2026年版では、AI時代におけるアーキテクチャと実装の進化を反映します。Web3の観点では、スマートコントラクト、トークン設計、DAOガバナンスがアーキテクチャの新たな層として加わります。

3.1 この章のフレームワークとゴール

2章では、Web 2.0サービスの成功要因について、「データ」「ユーザ」「サービス」への分解と、ネット企業の分析を行いました。3章では、実際に「ビジネスサイト2.0」を成功裏にスタートさせるため、サイトのプランニングにおいてD・U・Sを差別化要因として活用する道を探っていきます。

D・U・Sを成功に必要な「アーキテクチャ」と捉え、そのコンセプトに従った実現手段である「実装」を考えていこう——この枠組みは、2026年においても有効です。

2026年の視点:AI時代において、アーキテクチャには「AIの組み込み」「データの活用」「人間とAIの協業」といった新たな層が加わりました。実装には、AI APIの利用、プロンプト設計、RAG(Retrieval Augmented Generation)、エージェント設計などが含まれます。Web3の観点では、「オンチェーン/オフチェーンの分担」「トークンによるインセンティブ設計」「DAOによるガバナンス」がアーキテクチャの選択肢として加わります。ただし、根本的な問い——「何を牽引力とするか」「どのようなアーキテクチャで実現するか」——は変わっていません。

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3.2 Web 2.0サービスの成功の隠し味「ファンシー(意匠・装飾)」

多くのWeb 2.0サービスでは、とくにその初期においてユーザから支持を得るための原動力となった1つの要素がありました。「データ」「ユーザ」「サービス」のいずれの成功要因にも入らないが、見逃せない役割を果たす——その概念を「ファンシー(fancy)」と名付けました。

3.2.1 「ファンシー」とはどんなものか

Web 2.0ミームマップには「遊びの要素(Play)」「創発:ユーザ行動の意外性(Emergent)」というミームがあります。「ファンシー」は、①デザインのトーン&マナーとして表現される、②単なる付随的な飾りではなく成功要因として重要な役割を担う、③操作性をプラスに転じさせる(Amazon Diamond Searchなど)、④「楽しそう」「ワクワクする」「さわってみたい」といったエモーションを喚起する——といった要素です。

2026年の視点:「ファンシー」は、いまも差別化の要因です。AI時代においては、AIとの対話の楽しさ、生成コンテンツの意外性、パーソナライズされた体験の「驚き」——これらが新たなファンシーになりつつあります。ChatGPTの会話の自然さ、Midjourneyが生み出す画像の意外性、音声アシスタントの親しみやすさ——技術が進化しても、「楽しい」「ワクワクする」という感情を喚起することの価値は変わりません。

3.2.2 「ファンシー」を扱う・実装する難しさ

「ファンシー」は、センスや開発能力などどれか1つへの還元が難しく、実装や施策にブレイクダウンするのが難しいと考えられました。Web 2.0サービスの文脈理解力と、アジャイルなサービス開発力の両方が必要だ、という指摘でした。

2026年の視点:AI時代において、ファンシーを実現する手段は増えました。生成AIによるコンテンツの多様化、マルチモーダル体験、パーソナライズ——ただし、それらを「楽しい」「ワクワクする」と感じさせる設計は、依然として人間の感性と試行錯誤に依存しています。AIはファンシーを「生成」する道具にはなれても、「何がファンシーか」を決めるのは人間です。

3.3 自社の与件から対応可能なモデルを考えることが必要

スタートアップのようにゼロからの構築ではなく、現実に存在するビジネスサイトでのWeb 2.0対応を考える際には、ビジネスサイトの種別、業界内ポジションなどによって、適用できる差別化要因は異なります。とくに、Webサイトに投入している人・モノ・資金と、そこから蓄積されているリテラシーは大きな影響があります。

3.3.1 ビジネスサイトが実利に直結しているか

そのビジネスサイトが「看板」や「名刺」であり、現時点で営業や物販などのチャネルとして機能していない場合、ビジネスサイト2.0へのスムーズな移行は困難でしょう。企業内にオンラインでのコミュニケーションのスキルが溜まっていないからです。

2026年の視点:この指摘は、AI導入においても同様です。実利に直結していないサイトに、いきなりAIチャットボットや生成コンテンツを導入しても、効果は限定的でしょう。まず、オンラインでのコミュニケーションとデータの蓄積ができているか、が前提になります。

 3.3.2 ビジネスサイト専任の担当者はいるか

専任の担当者や担当部署が存在するか。総務部・広報部などが兼任していたり、運用・保守に忙殺されている場合、戦略立案において大きな力を発揮できる可能性は低いでしょう。

2026年の視点:AI時代において、専任担当者の役割は「AIを導入する」だけでなく「AIとどう協業するか」を設計することに広がっています。兼任や忙殺されている状況では、AIの効果的な活用も難しいでしょう。

3.3.3 マネジメントがビジネスサイトにコミットしているか

とくにトップマネジメントがWebのトレンドや、自社サイトの概況を理解していないようでは、展開するサービスが飛躍できる可能性は少ないと考えるべきでしょう。

2026年の視点:AI時代において、マネジメントの理解はさらに重要になっています。AIは投資が大きくなりがちであり、効果測定も複雑です。トップが「AIで何を実現したいか」を理解し、コミットしていなければ、プロジェクトは迷走しがちです。

3.4 ビジネスサイト2.0への投資をどう考えるべきか

3.4.1 「45%の戦略的投資」が重要

アクセンチュアの調査によれば、企業は少なくともIT投資の45%は戦略的投資にまわすべきだ、としていました。積極的にリスクを取る企業が高成長を遂げている、という点は参考になるはずです。

2026年の視点:この原則は、AI投資においても有効です。AIは「固定的IT支出」に回しがちな領域(既存システムの維持)ではなく、「戦略的投資」(新サービス開発、体験の革新)に位置づけるべきです。ただし、AI投資は効果が見えにくい場合もあり、段階的な投資と検証が重要です。

3.4.2 Web 2.0における「投資」の考え方

投資とは必ずしもお金や人手を投じることばかりではありません。「保護」から「解放」へ(Flickr)、「管理」から「解放」へ(Wikipedia)——あえてオープンにすることが「投資」になっているわけです。ユーザデータベースやコンテンツなどのユニークなデータを、「インテルインサイド」型ビジネスを推進するために「投資」する、というシナリオがあり得ます。

2026年の視点:AI時代において、「データをオープンにする」という投資は、学習データの提供、APIの公開、オープンソースモデルの活用といった形で続いています。一方で、データの囲い込みとプライバシー保護のバランスは、より慎重に考える必要があります。

3.4.3 投資はバリュープロポジション実現のために

ビジネスサイト2.0における投資もまた、ユニークな「データ」や十分な数の「ユーザ」を獲得し、競争力のある「サービス」を実現するために行われるべきでしょう。

2026年の視点:AI時代において、バリュープロポジションは「AIによって実現する独自の価値」を含みます。データ、ユーザ、サービス——この3つに、「AIの活用方法」を加えて考えると、投資の方向性が明確になります。

3.5 ビジネスサイトの与件について考える

一口にビジネスサイト2.0と言っても、適用範囲などによっていくつかの種別があります。

3.5.1 機能追加型

既存のビジネスサイトに、1カテゴリ、1コンテンツなどというかたちで機能の追加を行うプロジェクトです。取り組みの敷居は最も低く、テストマーケティングとして行う場合や、元のビジネスサイトの規模が大きい場合などには現実的なオプションでしょう。

2026年の視点:AIの導入も、まずは「機能追加型」から始めるのが現実的です。既存サイトにチャットボットを追加する、検索にAIを組み込む、コンテンツ生成を補助する——小さく始めて、効果を検証しながら拡大する、というアプローチは、当時と変わりません。

3.5.2 リプレース型

既存のビジネスサイトを完全に置き換えるというプロジェクトです。「データ」「ユーザ」のいずれかを継承し、「サービス」を大きく変えるというのが典型的かもしれません。

2026年の視点:AIを中核に据えたサイトへのリプレースは、データとユーザの継承が鍵です。既存のコンテンツ、ユーザ行動データ、ドメイン知識——これらをAIが活用できる形で引き継ぐことが、成功の条件になります。

3.5.3 新規構築(事業)型

既存のビジネスサイトの資源とは無関係に、新規事業として構築するタイプのプロジェクトです。新たな「データ」「ユーザ」「サービス」といった牽引力を元に構築することになります。

2026年の視点:AIネイティブな新規事業——生成AIを軸にしたサービス、AIエージェント、パーソナライズド体験——これらは新規構築型に該当します。制約が少ない分、競争も激しい。差別化のための「データ」「ユーザ」「サービス」の設計が、より重要になります。

3.6 「データ」「ユーザ」「モデル」とWeb 2.0ミームマップの関係

3.6.1 モデルから実装へ その前にコアコンピタンス

Web 2.0ミームマップは、オライリーが主催するFoo Campのブレーンストーミングセッションで得られたさまざまなミームを、ゆるやかな関係性の中でまとめたものです。最も重要なのは、中核部でリスト化されている「コアコンピタンス」だと見なすことができます。

3.6.2 「アーキテクチャ」と「実装」という比喩で考えてみる

コアコンピタンスと周辺のミームの関係を、コンピュータの世界になぞらえれば、「アーキテクチャ」(基本設計・設計思想)と「実装」(実際の回路設計や動作するプログラム)の関係と等しいと考えることができます。

2026年の視点:AI時代において、アーキテクチャには「AIの役割」「データの流れ」「人間とAIの分担」が含まれます。実装には、モデル選択、プロンプト設計、RAG、ファインチューニング、エージェントの設計などが含まれます。アーキテクチャを先に決め、その上で実装を選ぶ——この順序は、AI時代においても有効です。

3.7 「データ」牽引モデルを考える

「データ」を牽引力とするビジネスモデルは、WSFinderのプレーヤ分類でいえば「データサイロ」「Webサービスプロバイダ」にあたり、価値ある「データ」をオープンにすることを牽引力としてトラフィックや収益などを得るモデルです。

3.7.1 「データ」を集める方法

①自社の資産から探す、②購入する、③すでに持っているデータを呼び水にして集める、④ネット上の関心を呼ぶ仕掛けを作って集める——といった方法が挙げられていました。

2026年の視点:AI時代において、データの収集は「学習データ」「ユーザ行動」「フィードバック」の3つに分解して考えると有用です。また、既存データをAIが活用できる形に変換する(構造化、アノテーション)ことも、重要な「データ」投資になります。

3.7.2〜3.7.4 該当するアーキテクチャ、要件、チェックリスト

「再構成可能なデータソースとデータの変換」が該当するアーキテクチャ。チェックリストとしては「もっとユニークなデータにできないか?」「もっと小さくできないか?」「もっとオープンにできないか?」が挙げられていました。

2026年の視点:AI時代において、「データ」の重要性はさらに増しています。学習データの品質、ドメイン固有のナレッジ、ユーザフィードバックのループ——これらは、AIの性能と差別化を決める要因です。「もっと小さく」は、マイクロコンテントから、さらに「コンテキスト」や「プロンプト」の単位へと進化しています。

3.8 「ユーザ」牽引モデルを考える

「ユーザ」を集めることで、サイトトラフィックや収益などを得るビジネスモデルです。「参加のアーキテクチャ」が鍵であり、急進的信頼(Radical Trust)の醸成、利己的な行動が全体益につながる仕組み、多様な利用法の想定、ハックしやすさ・リミックスしやすさ——といった要件が挙げられていました。

2026年の視点:AI時代において、「ユーザ」牽引モデルは、ユーザのフィードバックがAIの改善に直結するループを設計することが重要になります。また、ユーザがAIと協業してコンテンツを生み出す——CGMとAIGCの融合——といった新しい参加の形が生まれています。Web3では、トークンホルダーがプロトコルの改善に投票するDAO、NFTオーナーがコミュニティの方向性を決めるガバナンス——「ユーザは貢献者であり、オーナーである」という形が加わります。「ユーザは貢献者」という原則は、AI時代・Web3時代においても有効です。

3.9 「サービス」牽引モデルを考える

「サービス」牽引モデルは、「データサイロアグリゲータ」「Webサービスアグリゲータ」が該当します。①不便を解決する便利さ、②これまでなかったタイプの革新的なサービス——によってトラフィックを集め、収益を上げる土台を作るモデルです。

コアコンピタンスとしては「リリースサイクルの終焉」「リッチなユーザ経験」「スティッキネスからシンジケーションへ」「多様なデバイス対応」が挙げられていました。

2026年の視点:AI時代において、「サービス」牽引モデルは、AIを組み込んだ体験の設計が中心になります。AIのAPIを利用する、RAGで独自のナレッジを活用する、エージェントで複数ステップを自動化する——これらは「サービス」の革新です。また、「サービス」の継続的改善は、AIモデルの継続的学習(MLOps)にも対応しています。チェックリストの「もっとアジリティを上げられないか?」「もっとライトにできないか?」「もっとオープンにできないか?」——これらは、AIの組み込みにおいても有効な問いです。

Chapter 4:CGM・BlogosphereがWebマーケティングを変える(2026年版)

この章では、CGM(Consumer Generated Media)とアテンションエコノミーを主題に、Webマーケティングの変革について考えます。2026年版では、CGMがSNS・動画・AIGCと融合した現在の状況を反映し、アテンション獲得の重要性がさらに増していることを示します。Web3の観点では、NFTによるファンエンゲージメント、トークンによるインセンティブ設計、DAOによるコミュニティマーケティング——オーナーシップを軸にした新たなマーケティング手法を加えます。

4.1 CGMの台頭とアテンションエコノミー

CGMとアテンションエコノミー——これらは、Web 2.0のインフラの上でWebマーケティングに与える影響を考える際に、とくに重要なキーワードでした。

2026年の視点:二十年後、CGMは形を変えながら拡大しています。blogの中心はSNS(X、Instagram、TikTok、YouTube)やショート動画に移り、さらにAIが生成するコンテンツ(AIGC)が加わりました。一方、アテンションエコノミー——関心の獲得が最も重要だという認識——は、情報過多がさらに深刻になったいま、むしろより強く当てはまっています。AIがコンテンツを量産できるようになったことで、アテンションの奪い合いは激化しています。Web3では、NFTの保有による「オーナーシップ」がファンエンゲージメントの新たな軸になり、トークンによる「貢献への報酬」がアテンション獲得のインセンティブ設計として活用され始めています。

4.2 「CGM(Consumer Generated Media)」とは何か

CGMは「消費者発信型メディア」などと訳される言葉です。blog、SNS、掲示板、メールマガジンなど、ネット上で消費者自身がつむぎ出すコンテンツのネットワークの総体と説明されました。ダン・ギルモアの『ブログ 世界を変える個人メディア』が説明したメディアの革新時代の到来とも言えます。

4.2.1 背景の1つは既存メディアの影響力の低下

紙媒体(新聞・雑誌)の影響力の低下、テレビの影響力の低下——既存メディアの地位が下がると、マスに向けた広告販促の効果が減り、相対的に価値を上げてきたのがCGMだと言えます。

2026年の視点:この傾向はさらに進んでいます。新聞の定期購読率、雑誌の発行部数はさらに減少し、テレビ離れは加速しました。一方、SNS、動画プラットフォーム、インフルエンサー、UGC——消費者が発信するコンテンツは、マーケティングの主戦場になっています。さらに、AIが生成するコンテンツ(AIGC)が加わり、CGMとAIGCが混ざり合う「ハイブリッドメディア」の時代になっています。

4.3 「アテンションエコノミー」とは何か?

4.3.1 爆発的に成長するBlogosphere

当時、Technoratiは世界の2,700万ものblogをトラッキングしており、その数は「5カ月半ごとに倍増」——Blogosphereは驚異的な速度で成長していました。

2026年の視点:blogの数はさらに増えましたが、アテンションの中心はSNSと動画に移っています。TikTok、YouTube、Instagram Reels、X——これらが「CGMの主戦場」です。Technoratiは影響力を失い、blog検索の主役は検索エンジンやSNSのアルゴリズムに移りました。重要なのは「どこにアテンションが集まっているか」であり、それは二十年で大きく変化しています。

4.3.2 アテンション(関心)の獲得が最も重要な時代になった

情報のオーバーフローが起きる中、情報提供側からすれば、自らが発する情報への「アテンション」の獲得がますます難しく、それゆえに重要になってくる——アテンションが貴重な価値となり、それを中心にさまざまな競争関係が築かれる状況を「アテンションエコノミー」と呼びました。

2026年の視点:この原則は、AI時代においてさらに先鋭化しています。生成AIがコンテンツを量産できるようになったことで、情報の洪水はさらに深刻になりました。アテンションの獲得は、マーケティングの最重要課題であり続けています。アルゴリズム、パーソナライズ、インフルエンサー、バイラル——いずれも「アテンションをどう獲得するか」という問いへの答えのバリエーションです。

4.3.3 ユーザはこれ以上の情報を処理できない

ネットユーザの情報処理能力が劇的に高まることはありません。ユーザは「人」をキーに、アグリゲーションサービスでフィルタをかけ、情報収集を効率化しようとします。

2026年の視点:AIがこの問題への新たな答えになりつつあります。レコメンド、要約、パーソナライズ——AIはユーザの代わりに情報をフィルタし、優先順位をつける役割を担い始めています。一方で、AIによるフィルタが「エコーチェンバー」や「フィルタバブル」を生むリスクも指摘されています。アテンションエコノミーにおけるAIの役割は、まだ過渡期にあります。

4.4 AIDMAの法則からAISAS・AISCEASの法則へ

消費行動の古典的なプロセスモデルであるAIDMAの法則に変わって、CGMの台頭によって変化・複雑化するネットユーザの購買プロセスを説明したものに「AISASの法則」「AISCEASの法則」がありました。

- AISAS:Attention → Interest → Search → Action → Share

- AISCEAS:Comparison(比較)、Examination(検討)が加わる

2026年の視点:このプロセスモデルは、いまも有効な枠組みです。ただし、各ステップの形は変化しています。Searchは、検索エンジンだけでなく、AIへの質問、SNSでの検索、レコメンドに置き換わる場合もあります。Shareは、SNSでのシェア、レビュー、インフルエンサーへの言及など、多様な形をとります。AIが各ステップに介在する——レコメンド、チャットボット、パーソナライズ——という新たな層が加わっています。

4.5 AISAS・AISCEASはWeb 2.0時代のネットユーザの導線

オライリーは「Web 1.0で重んじられたのは1つのサイトへのスティッキネスだが、Web 2.0ではシンジケーションが重要だ」と説明していました。ネットユーザがおもにサーチエンジンに頼っていた時代にはSEO・SEMが最重要だったが、blogやSNSなどのCGMが勢いを増す一方で、それらにアテンションが奪われれば、SEO・SEMだけを考えていれば良いというわけではない——blogで話題になる、ソーシャルブックマークでクリップされるなど、口コミによる伝播を起こすような施策も検討すべき、という指摘でした。

2026年の視点:導線はさらに複雑化しています。検索はAIの直接回答に移行しつつあり、SEOの前提が変わりつつあります。SNS、動画、インフルエンサー、アプリ内検索——ユーザがたどり着く経路は多様化しています。マルチチャネル、オムニチャネルという考え方は、いまも有効です。そして、AIが「導線」そのものを最適化する——パーソナライズされた体験、レコメンド、チャットボットによる誘導——という新たな層が加わっています。

4.6 CGM・Blogosphereで何が起きているかを見渡そう

4.6.1 CGM・Blogosphereのトレンドをキャッチ

当時、kizasi.jp、ブログクチコミサーチ、CGMマイニングネットボイスといったサービスが、Blogosphereのトレンドを可視化していました。

2026年の視点:トレンドの可視化は、SNSのトレンド機能、ハッシュタグ分析、インフルエンサー分析ツール、ソーシャルリスニングツールなどに進化しています。Brandwatch、Sprout Social、あるいは各プラットフォームの分析機能——「今何が話題になっているか」を掴む手段は増えました。一方、アルゴリズムのブラックボックス化により、トレンドの「なぜ」を理解することは難しくなっている面もあります。

4.6.2 ユーザの興味を探し出す

キーワードツールでユーザがどんな検索キーワードを使っているかを調べ、CGM・Blogosphereで何が起こり、ユーザは何に興味を抱いているかを掴むことが重要でした。

2026年の視点:ユーザの興味を探る手段は、検索キーワードに加え、SNSのエンゲージメント、動画の視聴傾向、AIとの対話ログなどに広がっています。ただし、プライバシー規制の強化により、データの取得には制約が増えています。コンテキストに基づく推測、ファーストパーティデータの活用——アプローチは変化しています。

4.7 CGMでのプロモーションのリスクとは

企業がBlogosphereを露骨にコントロールしようとして失敗した事例は、すでにいくつもありました。Raging Cowのやらせblog、SONY「ウォークマン Aシリーズ」のケース——「肉声」や「本音」を重んじるメディアであるCGMが、フェイクに強く拒否反応を示すことは、Web担当者であれば納得できるはずです。重要なのは「対話」を意識したサイトづくりでした。

2026年の視点:やらせ、フェイク、インフルエンサーの不正——リスクは形を変えて存在し続けています。さらに、AIが生成するコンテンツの「本物らしさ」と「信頼性」が新たな課題になっています。ディープフェイク、AIによる偽レビュー、ボットによるエンゲージメントの水増し——CGMとAIGCが混ざり合う時代において、信頼の確保はより複雑になっています。「対話」を意識すること、透明性を保つこと——この原則は、いまも有効です。

4.8 アクセス解析を巡るトレンド

ビジネスサイトの運営における「アクセス解析」の重要性は今さら強調する必要はありませんが、CGMが盛んになる中で、ユニークユーザのトラッキング、blog特化型の解析、Google Analyticsの登場による価格破壊——といったトレンドがありました。

2026年の視点:アクセス解析は、Google Analytics 4、Adobe Analytics、あるいはプラットフォーム別の分析(Meta Business Suite、TikTok Analyticsなど)に進化しています。一方、サードパーティCookieの廃止、プライバシー規制(GDPR、CCPAなど)により、トラッキングの方法は大きく変わっています。ファーストパーティデータ、コンテキスト広告、プライバシーサンドボックス——新しい枠組みでの効果測定が求められています。

4.9 ロングテールをWebマーケティングに活かすには

4.9.1 CGM時代のSEO・SEMへの取り組み方は

SEO・SEMの価値は下がったのか——いいえ、ビジター獲得のためのさまざまな施策のポートフォリオとして、SEO・SEMはやはり重視する必要があります。業種・業界、商材やサービスによってベストプラクティスがあるはずです。

2026年の視点:SEOは、AI検索(AI Overviews、Perplexity、ChatGPT Searchなど)の台頭により、大きな転換期にあります。従来のキーワード最適化に加え、「AIが引用しやすいコンテンツ」「構造化データ」「エンティティの明確化」——といった新たな要素が重要になりつつあります。SEM(検索連動型広告)は、AI時代においても継続していますが、オークションの仕組みや計測方法は進化しています。

4.9.2 SEO・SEMのロングテール対応を考える

ビッグキーワード、スモールキーワード——CGM時代のネットユーザの動向を考えれば、スモールキーワードへの対応が重要性を増すでしょう。LPO(Landing Page Optimization)も、ユーザのプロファイルや欲求がロングテール化している現在、重要性が高まっていました。

2026年の視点:ロングテールの考え方は、いまも有効です。ニッチな検索クエリ、ロングテールキーワード——AI検索においても、多様なクエリへの対応は差別化の要因になり得ます。一方、AIがクエリを解釈し、最適な回答を生成するため、従来のキーワードマッチングとは異なる最適化が求められる可能性があります。

4.10 普及したRSSをビジネスサイトで活用する

4.10.1 2005年は「RSSの年」だった

2004年が「blogの年」なら、2005年は「RSSの年」だという見方がありました。RSSがメタデータ本来の可塑性を発揮することで、「プラットフォームとしてのWeb」を活性化させる原動力となった年だと言えます。

2026年の視点:RSSは、一般ユーザには十分に普及しませんでした。代わりに、SNSのフィード、ニュースアプリ、メールニュースレター、プッシュ通知——情報の配信と購読の形は多様化しています。RSSは、開発者やパワーユーザーの間では依然として使われていますが、マーケティングの主戦場としては、SNSやメール、アプリのプッシュが中心です。

4.10.2 ビジネスサイトでRSSを活用するには

RSSリーダーに登録するユーザは目的指向であり、再訪問の可能性が高い。RSSフィードは新たな集客・ロイヤルティ形成チャネルであり、配信をスタートするべき——という指摘でした。

2026年の視点:RSSに代わるチャネルとして、メールニュースレター、SNSのフォロー、アプリのプッシュ、LINE公式アカウントなどが中心になっています。「目的指向のユーザに届ける」という原則は同じですが、手段はプラットフォームに応じて選ぶ必要があります。

4.11 RSSの普及で「アクセス解析」にも見直しが必要に

RSSフィードの配信を行うと、ページビューとしてカウントされなくても、RSS上で情報を閲覧するユーザが増えます。同じ理由で、「ユニークユーザ」という指標についても、その定義から見直す必要が出てくると指摘されていました。

2026年の視点:この問題は、SNS、メール、アプリ、AI——多様なチャネルが存在するいま、さらに複雑になっています。オムニチャネルでの効果測定、アトリビューション、マルチタッチ——「どこでコンバージョンが起きたか」を正確に把握することは、依然として課題です。

4.12 広告チャネルとしてのRSS

RSS広告、Google AdSense for feeds——RSSリーダー上でコンテクスチュアルなテキスト広告を挿入するサービスは、今後有力になるはずだと言われていました。

2026年の視点:RSS広告は、RSSの普及が限定的だったため、大きな市場にはなりませんでした。代わりに、ネイティブ広告、インフィード広告、SNS内広告、動画内広告——コンテキストに合わせた広告の形態は、各プラットフォームで発展しています。

4.13 Blogosphereをバイラル広告が駆けめぐる

4.13.1 バイラルマーケティングの登場

商品やサービスについてネット上で口コミ(Buzz)を誘発することを狙う「Buzzマーケティング」「バイラルマーケティング」は、CGM全盛時代になってますます有力視されていました。ネットワークのハブ的存在にいかにリーチするかが肝心です。

4.13.2〜4.13.4 トラックバックキャンペーン、バイラルCM、効果測定

トラックバックキャンペーン、バイラルCM——Blogosphereで注目を集め、アテンションを喚起することを狙ったプロモーション手法が、さまざまなやり方で編み出されると予測されていました。

2026年の視点:バイラルマーケティングは、SNS、動画、インフルエンサーを軸に進化しています。トラックバックはほぼ使われなくなりましたが、「シェアしたくなる」「拡散する」という原理は、TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsでより強く機能しています。インフルエンサーマーケティング、UGCキャンペーン、バイラル動画——形は変わりましたが、口コミによる伝播を狙う考え方は健在です。

4.14 Yahoo!が示すCGMとの付き合い方

4.14.1 Yahoo! Shoposphereが示す「ソーシャルコマース」への道

Yahoo! Shoposphereは、Yahoo! Shoppingと連携し、ユーザがお気に入り商品のリストを作り、Webページ、メール、RSSとして掲出・配信できるサービスでした。ECサイトでのソーシャルインフラの活用の可能性を示していました。

2026年の視点:Yahoo! Shoposphereは、Yahoo!の衰退とともに影響力を失いました。しかし、「ソーシャルコマース」の考え方——ユーザのリスト、レビュー、シェアをECに組み込む——は、Amazonのウィッシュリスト、Pinterestのショッピング機能、Instagram Shopping、TikTok Shopなどに受け継がれています。ソーシャルとECの融合は、いまも進行中です。

4.14.2 日本でのYahoo!の展開

Yahoo!商品検索——商品検索に特化したバーティカルなサーチエンジンでした。

2026年の視点:Yahoo! Japan(現LINEヤフー)は、日本国内では独自のポジションを維持していますが、商品検索の主役はAmazon、楽天、Googleに移っています。

4.15 CGMの今後は? Google BaseとStructured Blogging?

4.15.1 Google Baseは「人手」を活用するトレンドへの分岐点?

Google Baseは、ユーザが比較的自由なフォーマットで情報をWeb上に掲出できるサービスでした。「究極のCMS」または「CGMの最新型」と評する声もありました。

2026年の視点:Google Baseは、Google Merchant Centerなどに統合・発展し、EC向けの商品データ登録のプラットフォームとして継続しています。一方、「人手」を活用するトレンドは、クラウドソーシング、UGC、そしてAIの学習データ作成(アノテーション)として続いています。AI時代において、「人手」と「AI」の協業が、新たな分岐点になっています。

4.15.2 Blogosphereのコンテンツの標準化とマイクロ化—microformats

microformats——小さなデータにXHTMLベースのシンプルなメタデータを与えることで、データの利用性を上げようというコンセプト。Structured Bloggingという考え方が注目されていました。

2026年の視点:microformatsは、Schema.org、JSON-LD、Open Graphなどに発展・統合されています。構造化データは、SEO、リッチスニペット、AIの理解——いずれにおいても重要です。コンテンツの「標準化」と「マイクロ化」の流れは、いまも続いています。

4.15.3 CGMの進化にWebマーケティングは従う

CGMを舞台に新たな化学変化が起こるとき、Webマーケティングにおいても、新たな販促手法が続々と登場してくるかもしれません——という予測でした。

2026年の視点:この予測は正しかったと言えます。SNSマーケティング、インフルエンサーマーケティング、動画マーケティング、コンテンツマーケティング——CGMの進化に合わせて、販促手法は多様化しました。そして今後は、AIGCを活用したマーケティング、AIによるパーソナライズ、AIチャットボットを介した販促——CGMとAIGCが融合する時代のマーケティングが、さらに発展していくでしょう。

Chapter 5:演習 ビジネスサイト2.0をプランニングする(2026年版)

この章では、「演習」として、架空の企業の与件を元に、ビジネスサイトにWeb 2.0的なダイナミズムを取り入れるソリューションを考えます。2026年版では、各演習にAI時代の視点を加え、現代の技術と文脈でどうアプローチするかを示します。Web3の観点では、NFT、トークン、DAOを活用した演習の拡張案も提示します。*

演習の概要と2026年の視点

当時、10の演習が用意されていました。いずれも「データ」「ユーザ」「サービス」のいずれかを牽引力とし、Web 2.0的な参加のアーキテクチャを組み込むプランニングでした。

2026年の視点:これらの演習の考え方は、AI時代においても有効です。ただし、実装の選択肢は変化しています。

1 | Wiki・タギングで参加できるオモチャサイト → Notion、共有ドキュメント、AIによるタグ提案、UGC×AIGCの融合 

2 | Web 2.0時代のクレーム対応インフラ → AIチャットボット、感情分析、エスカレーション設計、CXプラットフォーム 

3 | リクルート学生向けソーシャルニュース → アルゴリズム、パーソナライズ、SNS連携、AIによる要約・レコメンド 

4 | Ajax・Flashでアクションアバター → インタラクティブUI、WebGL、AIアバター、マルチモーダル体験 

5 | SNSインフラで政府系事業を促進 → デジタル行政、GovTech、コミュニティプラットフォーム、AIによる問い合わせ対応 

6 | Skype・Podcastで音声コンテンツコミュニティ → 音声SNS(Clubhouse等)、Podcast、AI音声生成、音声検索

7 | ネット×リアルのバイラル鬼ごっこ → 位置情報、AR、ゲーミフィケーション、ソーシャル機能

8 | Know Whoシステム2.0 → 人脈マッピング、AIによるマッチング、ナレッジグラフ

9 | 釣り情報のblogアグリゲーションポータル → ニッチ垂直メディア、UGC、AI要約、構造化データ

10 | オンラインゲームを広報・フィランソロピーに → メタバース、ゲーミフィケーション、バーチャルイベント、AI NPC

Web3の拡張案:

演習1(オモチャサイト)→ NFTによるコレクション性、DAOによるコミュニティガバナンス。

演習3(ソーシャルニュース)→ トークンによる貢献報酬、キュレーターへのインセンティブ。

演習9(釣り情報ポータル)→ NFTによる釣果の記録・共有、トークンによる情報提供への報酬。

演習10(オンラインゲーム)→ ゲーム内資産のNFT化、プレイヤーオーナーシップ。

重要なのは、演習の「型」——与件を理解し、牽引力(データ・ユーザ・サービス)を特定し、参加のアーキテクチャを設計する——というプロセスは、AI時代・Web3時代においても変わりません。AIは実装の選択肢を広げる道具であり、Web3はオーナーシップとインセンティブ設計の新たな選択肢を加えます。

Chapter 6:Web屋2.0 — ビジネスサイト2.0のための人と組織(2026年版)

この章では、Web 2.0時代のWeb屋が、戦略立案、広報、組織体制、顧客との付き合い方、仕事スタイル、知的財産、自社サイトの活用において、どのようなプラクティスを持つべきかを考えます。2026年版では、AI時代のWeb屋に求められる変化を加えます。Web3の観点では、スマートコントラクト、トークン設計、DAOガバナンスに関する理解が、Web屋のスキルセットに加わりつつあります。

6.1 Web屋2.0のためのプラクティスをまとめてみる

Web 2.0時代、個人としても組織としても、成果を上げるWeb屋のコアコンピタンスは「つたなくても動いてみること」でした。まずは試してみて、そこからフィードバックや暫定的な答えを得ながら先へ進む——アジャイルなマインドです。

2026年の視点:この原則は、AI時代においてさらに重要になっています。AIの進化は速く、試してみないと効果はわかりません。プロンプトを試す、モデルを比較する、ユーザに触れてもらう——「動いてみる」ことの価値は、二十年で増しています。

6.2 Web屋2.0 戦略立案・サービスのリリース編

戦略を隠すこと、オープンにすること——顧客や競合との関係によって使い分ける。サービスは小さめに、そして早く行う——MVP、アジャイル、継続的改善。

2026年の視点:AIの導入も、小さく始めて早くリリースする——この原則はそのままです。AI機能を「実験」として出し、フィードバックを得て改善する。大規模なAIプロジェクトより、小さな成功の積み重ねが有効です。

6.3 Web屋2.0 広報・宣伝戦略編

声高な宣伝より他者による評判が大切になってきた——「宣伝」ではなく「傾聴」。SMO(ソーシャルマーケティングオプティマイゼーション)で共感を広げる。Blogosphereで「他者にして語らしめる」ほうが宣伝効果は何倍も高い。

2026年の視点:インフルエンサー、口コミ、レビュー、UGC——評判による宣伝の重要性は増しています。一方、AIが生成するコンテンツやレビューの「本物らしさ」が問われる時代です。透明性と誠実さが、評判の土台になります。

6.4 Web屋2.0 組織体制・スタッフのスキル編

未知の問題はチーム全体で解決する——小さなチーム、緊密なコミュニケーション、糊代を増やし互いにカバーし合う。Web 2.0はエンジニア主導の時代か——チームの力が重要。プロデューサー、ディレクター、デザイナー、エンジニア——いずれも必要です。

スキルセット——プロデューサー・ディレクターには「チェンジリーダー」の能力。デザイナー・マークアップエンジニアには、セマンティックなマークアップ、RUI(リッチユーザインターフェース)の理解。

2026年の視点:AI時代のスキルセットには、プロンプトエンジニアリング、AIの評価・検証、データの設計、AI倫理——が加わります。Web3に関わるプロジェクトでは、スマートコントラクトの理解、トークン経済の設計、ウォレット連携、DAOのガバナンス設計——といったスキルが求められる場合もあります。ただし、AIもWeb3も「道具」であり、ビジネスを理解し、ユーザを理解し、チームで解決する——という根本は変わりません。AIを活用できる人材と、AIと協業する人材、そしてWeb3の可能性を評価・活用できる人材の両方が必要です。

6.5 Web屋2.0 顧客との付き合い方編

顧客にリスペクトされる存在になる

「下請け」から「パートナー」へ。顧客のビジネスゴールに共鳴する——深い信頼関係、迅速な意思決定。

見積もりにおける留意点——コンセプト策定、技術検証、運用コストをしっかり計上。

協業のスタイル——オンサイト顧客、頻繁なレビュー、コミュニケーション密度の向上。

プロジェクトの評価基準——スコープと撤退基準を明確に、運用に注力。

2026年の視点:AIプロジェクトにおいて、顧客との協業はさらに重要です。AIの効果は試してみないとわかりにくく、要件が変わりやすい。顧客がプロジェクトに割くリソースを増やすこと、フィードバックを迅速に得ること——これらは、AI時代においても有効です。

6.6 Web屋2.0 仕事スタイルとR&D編

カジュアルなR&Dで変化に対応しよう——情報収集や新たなスキルの習得に時間を割く。20%ルール、Happy Friday——就業時間内にR&Dを組み込む。Google、Yahoo!の例。

2026年の視点:AIの進化に追いつくため、R&Dの時間はさらに重要です。新しいモデル、新しいツール、新しいユースケース——試す時間がない組織は、変化に取り残されます。マネジメントがR&Dを許容し、奨励することが、組織の持続可能性につながります。

6.7 Web屋2.0 知的財産とオープンな活動編

オープンな運動への貢献を通じて存在感を高める——オープンソース、クリエイティブコモンズへの貢献。CGM全盛時代には「宣伝」より「評判」の醸成が重要。オープンソース運動にコミットすることには確かな効果がある。

2026年の視点:オープンな活動は、オープンソースに加え、オープンなAIモデル、オープンデータ、オープンなツールへの貢献に広がっています。Hugging Face、オープンウェイトモデル、コミュニティへの貢献——評判とネットワークは、いまも重要な資産です。

6.8 Web屋2.0 自社Webサイトの活用編

自社サイトは試行錯誤の姿を写す鏡として——「看板」ではなく「お砂場」。考えていること、試みていることをこまめに伝える。blog、試行錯誤の記録、インフォーマルな情報発信。

2026年の視点:自社サイトでAIを試している姿を見せる、プロンプトの考え方を共有する、AIの限界と可能性を率直に語る——これらは、顧客への信頼と、採用における訴求力につながります。「お砂場」としての自社サイトは、AI時代においても有効な戦略です。

6.9 最後に—「お砂場」企業実現の鍵はマネジメントが握っている

「お砂場企業」とは——ユーザエクスペリエンスを「管理」するのではなく「デザイン」する。del.icio.us、Backpack、Upcomingは「お砂場」だ、というピーター・マーホルツの指摘。企業が「お砂場」化することのメリット——社員がスキルを自ら改訂し、モチベーションを高め、SMOによる営業効果をもたらす。

高まるマネジメントの役割——マネジメント層が変化の特性を理解し、社内体制づくりにコミットする必要がある。企業内個人が積極的な自己表現をするためにレールを敷くのは、マネジメントの役割。20%ルールのようなカジュアルなR&Dを組み込むのも、管理者の決定抜きには難しい。

2026年の視点:AI時代において、マネジメントの役割はさらに重要です。AIへの投資、R&Dの時間、失敗を許容する文化、スキル開発の支援——これらは、マネジメントのコミットメントなしには実現しません。「お砂場」企業になるかどうかは、いまもマネジメントが握っています。

Chapter 7:ビジネスサイト2.0におけるコストとリスク(2026年版)

「ユーザが貢献者」であり「集合知」を活用し、アジャイルなリリースが良しとされるWeb 2.0サービスでは、そのリスクやコストも従来のビジネスサイトとは異なります。2026年版では、AI時代における新たなコストとリスクを加えます。

7.1 「50%の完成度」「ユーザは貢献者」というが

サービスをまず小規模にスタートし、コミュニティの意見を取り入れながら完成度を上げる——「永久のβ版」。このコンセプトを実現するためのメンテナンスのコストは? ユーザコミュニティを信頼したときの著作権侵害や名誉毀損は? API経由で外部データを利用するMashupで、データ提供元が突然ポリシーを変更したら?

2026年の視点:これらの問いは、AI時代においても有効です。さらに、AIモデルの継続的改善(MLOps)、AIの出力の検証、学習データの品質管理——といった新たなコストが加わっています。「50%の完成度」でリリースし、ユーザフィードバックで改善する——この原則は、AI機能においても適用されますが、AIの場合は「ハルシネーション」や「バイアス」といった新たなリスクへの対応も必要です。

7.2 コストをどのように見込み、リスクをどう管理するのか

コストは必要なリソースを想定し、リスクは発生確率や影響度を把握しなければ対応を考えられません。Web 2.0サービスは一般企業が着目しはじめた段階であり、コストやリスクについての定見はあまり得られていませんでした。

2026年の視点:二十年でノウハウは蓄積されましたが、AIは新たな不確実性をもたらしています。AIの開発・運用コスト、API利用料、学習データの準備、モデルの検証——見積もりが難しい領域です。スパイク(技術調査・実験)を組み込む、段階的に投資する——当時のリスク軽減の考え方は、AIプロジェクトにも適用できます。

7.3 ビジネスサイト2.0の「運用」とは

運用——サービスが動いている状態を維持するオペレーション(監視、バックアップ等)。さらに、「永久のβ版」としてのサービスであれば、①ユーザからのフィードバックを速やかに検討し決断する、②頻繁な機能追加を行う——といった対応を含む。運用はルーティンではなく、マーケティングそのもの。

2026年の視点:AI時代において、「運用」にはモデルの継続的学習、出力のモニタリング、バイアスやハルシネーションの検出と修正——が含まれます。運用は変動費として考え、6〜12ヵ月分の予算をあらかじめ組む——この考え方は、AIの継続的改善にも適用できます。

7.4〜7.6 リスクの種類

迅速なリリースが行えないリスク——意思決定の遅さ、階層の多さ。タスクフォース制、裁量の多いチーム編成を検討すべき。

わからないものを実装するリスク——技術的に未熟な場合、工数見積もりが困難。スパイク(調査・実験のためのプロトタイプ)を組み込む。

ユーザ参加で生まれるリスク——著作権侵害、名誉毀損、コントローラブルな場面の減少。柔軟なモデレートと、監視・対応の人的リソースの確保。

2026年の視点:AIには「わからないものを実装する」リスクが大きい。プロンプトの効果、モデルの振る舞い、スケーラビリティ——試してみないとわからない部分が多い。スパイク、段階的ロールアウト、A/Bテスト——リスクを軽減する手法は、AI時代においても有効です。

7.7 コミュニティサイト運営に学ぶリスク軽減プラクティス

利用規約への明示的な同意、過剰に包括的でない規約、スキルあるスタッフによる監視・クレーム処理、迅速とフェアネスを重んじるトラブル対処——Wikipedia、YouTubeの事例から学ぶ。

2026年の視点:これらのプラクティスは、UGCとAIGCが混在する時代においても有効です。さらに、AIが生成するコンテンツの検証、ディープフェイクへの対応、ボットによる不正の検出——といった新たな対策が加わります。

7.8〜7.12 その他のリスク

ソーシャルブックマークのキャッシュ問題——著作権侵害のリスク。

著作権、知的所有権、ライセンス——名誉毀損、肖像権侵害、転載と引用の違い。

データは知的財産——「インテルインサイド」型は「知財インサイド」でもある。

OSSのコストとリスク——品質保証、ライセンス違反。

Remix・Mashupのリスク——APIの利用、スクレイピングの危険性、依存度の分散。

2026年の視点:AI時代において、「学習データの著作権」、「AIの出力の著作権」、「生成コンテンツの責任の所在」——といった新たな知財の論点が加わっています。APIの利用規約、利用料の変動、サービス終了——外部依存のリスクは、AI APIにおいても同様です。Web3では、「NFTの著作権と利用許諾」、「スマートコントラクトの知的財産」、「トークンの法的位置づけ」——といった新たな論点が加わっています。ブロックチェーンの不可逆性、ガス料金の変動、規制の不確実性——Web3特有のリスクも考慮する必要があります。

7.13 Web 2.0時代のコスト管理・リスク対策

コストは戦略と呼応する——コスト見積もりと管理は、施策の戦略的価値や効果と結び付けて行うべき。

リスクはトレードオフで考える——リスクマネジメントは、リスクを避けるためでなく、リスクを(積極的に)取るための方法論。オープン性によって得られるダイナミズムとのトレードオフで考える。

2026年の視点:AIへの投資も、戦略と呼応させるべきです。AIで何を実現したいか、その効果はどう測定するか——明確にしないと、コストは膨らみ、リスクは制御できなくなります。リスクを取ることを恐れすぎず、トレードオフを意識して判断する——この姿勢は、AI時代においても有効です。

Appendix:イケてるWeb 2.0サービス・API総覧(2026年版)

当時のAppendixでは、WATCH THIS NEXT、HotPads、STM ONLINE、TV Blog、Writeboard、Rollyo、YouTube、Socialight、PodBop、MySpace、Memeorandum、Where I Had My First Kiss?、10x10、Amazon Diamond Searchなど、アイディア出しに使えるWeb 2.0サービスを紹介していました。2026年版では、これらのサービスの系譜と、現代の「イケてる」サービス・APIを簡潔にまとめます。Web3の観点では、分散型プロトコルとdAppを追加します。

当時紹介されたサービスのその後

WATCH THIS NEXT ->サービス終了->レコメンドUI、AIレコメンド 

HotPads -> 継続(Zillow傘下) -> 不動産×地図、Zillow、Redfin

STM ONLINE -> ZOZOTOWN内で継続 -> ニッチEC、UGCレビュー 

TV Blog -> サービス終了 -> 番組×SNS、Xのトレンド 

Writeboard -> 37signalsに統合後終了 -> Notion、Google Docs、Coda 

Rollyo -> サービス終了 -> カスタム検索、AI検索

YouTube -> Googleに買収、巨大化 -> YouTube、TikTok、Reels 

Socialight -> サービス終了 -> 位置情報×コンテキスト、AR

MySpace -> 衰退 -> SNS、TikTok、Instagram

Amazon Diamond Search -> 継続 -> インタラクティブ検索、A|

2026年の「イケてる」サービス・API

AI・生成系

- OpenAI API、Anthropic API、Google AI API——LLMのAPI

- Hugging Face——オープンなAIモデルとデータセット

- Midjourney、DALL-E、Stable Diffusion——画像生成

- Runway、Pika——動画生成

データ・検索系

- Google Maps API、Mapbox——地図

- Stripe API——決済

- Twilio API——コミュニケーション

- Airtable API——データベース

コラボレーション系

- Notion API——ドキュメント・ナレッジベース

- Slack API——コミュニケーション

- Figma API——デザイン

Web3・分散型系

- Ethereum、Polygon、Base——スマートコントラクト実行環境

- Uniswap、Aave——DeFiプロトコル(流動性、貸借)

- OpenSea、Blur——NFTマーケットプレイス

- ENS——分散型ドメイン・アイデンティティ

- IPFS、Arweave——分散型ストレージ

- Lens Protocol、Farcaster——分散型ソーシャルグラフ

- WalletConnect——ウォレット連携

重要なのは、当時と変わらない原則——「便利」に一工夫加えて「楽しい体験」に、文脈を理解してユーザに名誉を与える、コンセプトを拝借して独自の中心を作る、マイクロコンテントとアグリゲーション——これらは、2026年のサービス設計においても有効な着眼点です。Web3では「オーナーシップ」「価値の分配」「コミュニティガバナンス」が、新たな設計原則として加わります。

著者あとがき

本書を2026年版として再び世に送るにあたり、いくつか記しておきたいことがある。

2006年、『Web屋の本』が刊行されたとき、私たちはWeb 2.0という言葉の熱に包まれていた。del.icio.us、Flickr、Wikipedia——それらのサービスが示す「参加」「オープン」「データ」の価値は、ビジネスサイトの未来を変えると確信していた。二十年という時間は、その確信が正しかったことを証明した。フォークソノミーはSNSに、APIはクラウドとAIに、ユーザ参加はUGCとAIGCの融合へと形を変えながら、いまもデジタル体験の土台であり続けている。

一方で、二十年は多くの変化ももたらした。Yahoo!の衰退、GoogleとMicrosoftのAIへの賭け、Amazonの巨大化——当時のプレーヤーの顔ぶれは様変わりした。技術の表層は、ChatGPT、NFT、DAOといった、当時は想像もできなかったものに置き換わっている。それでも、「データ」「ユーザ」「サービス」を軸にビジネスを捉える——このフレームワークは色あせていない。むしろ、AI時代においてデータの重要性が増し、Web3においてオーナーシップが新たな軸として加わったことで、この枠組みはさらに拡張可能になった。

本書の執筆中、もう一つの変化が地平に見え始めていた。スマートグラスの台頭である。視界に情報が重なり、ハンズフリーでAIと対話し、場所や文脈に応じて必要な情報だけが現れる——その世界では、スマートフォンを「取り出して」画面を「見に行く」という行為そのものが希薄になる。スマホは、かつてPCを脇役に追いやったように、今度は自らが脇役に回りつつある。そして、その先に問われるのは、Webサイトそれ自体の存在論的意義である。ユーザが「サイトにアクセスする」のではなく、「答え」や「体験」がコンテキストに応じて断片的に届く世界では、「サイト」という単位は溶解する。それでも、参照可能な記録として、オーサーシップの拠点として、あるいは信頼を担保する透明な基盤として——Webサイトは、形を変えながら存在し続けるだろう。本書が論じる「データ」「ユーザ」「サービス」の枠組みは、その変容のなかでも、何を設計すべきかを指し示す羅針盤として機能するはずである。

2026年版の改訂にあたり、各章に「2026年の視点」を加えた。本文は当時のままにし、現代の文脈から読み直すための注釈として配置した。思想は古くない——その確信に基づく試みである。執筆の過程では、多くの方々に支えられた。草稿に目を通し、率直な意見をくださった方々、Web 2.0時代から今日まで、この業界でともに歩んできた仲間たち——ここに心から感謝を申し上げたい。

二十年後、この本を手に取る読者がいるだろうか。そのとき、AIとWeb3はさらに進化し、私たちが「2026年の視点」と呼んだものも、古い文脈になっているかもしれない。それでも、変わらないものがある。「Web屋は何をすべきか」——この問いは、技術が変わっても答えを待ち続ける。参加、オープン性、ユーザを貢献者として迎え入れる姿勢。それらは、人間がデジタル体験を設計し続ける限り、参照すべき原則であり続けるだろう。

本書が、AIとともに働き、Web3の可能性を探る、新たな世代のWeb屋にとって、その問いに向き合う一歩となれば幸いである。


© SHIRO & Co.

First published: 2026-02-18

Webは、境界の存在を思い出させる。それは世界を分ける線ではなく、デジタル体験を成立させる静かな条件である。

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