会社の内側と外側が、少しずつ溶けている

フリーランスから正社員へ戻る人が増えている。

そう聞くと、単に「安定志向が戻ってきた」と見えるかもしれない。あるいは、人材不足の企業が即戦力を探しているだけ、とも言える。けれど、もう少し奥には別の変化がある。

会社の内側と外側の境界が、以前ほどはっきりしなくなっている。

かつて、正社員は内側の人だった。フリーランスは外側の人だった。業務委託は、一時的に仕事を頼む相手だった。しかし今は、外側から関わった人が、あとから内側に入ってくる。一度プロジェクトで働き、相性を見て、成果を見て、信頼が生まれたあとで、正社員になる。

採用は、入口ではなく、移行になり始めている。

ここに、まだ名前のついていない問題がある。

企業は、人材を採用したい。けれど、履歴書と面接だけでは、その人が本当に現場で機能するか分からない。個人は、会社に所属するかどうかを考える。けれど、一度フリーランスとして働いたあとでは、ただ雇用されるだけでは戻りにくい。

自由を失いたくない。でも、不安定さだけで働き続けるのも難しい。会社に入りたいわけではない。けれど、信頼できる場所には深く関わりたい。

この揺れを、従来の採用カテゴリはうまく扱えない。求人、応募、面接、内定、入社——この直線的な流れでは、すでに関係が始まっている人を扱いにくい。

必要なのは、採用管理ではなく、関係の移行を扱う仕組みかもしれない。

Transition Hiring Protocol。越境採用プロトコル、と呼んでもいい。それは、フリーランス、業務委託、副業人材、元社員、外部パートナーを、すぐに採用候補として囲い込むためのものではない。どの仕事で信頼が生まれたのか。どの判断に任せられる感覚があったのか。どこで文化との摩擦があったのか。本人は、どの距離感なら力を出せるのか。そうした関係の履歴を、急がずに記録するための仕組みである。

企業にとっては、人材不足への対策になる。個人にとっては、働き方の揺れを一度で決めなくてよくなる。チームにとっては、外側にいた人をどう内側に迎えるかを考えるきっかけになる。

ただし、これは急いで製品化しない方がいい。早く仕組みにすると、また新しい採用管理ツールになる。あるいは、フリーランスを正社員化するための営業リストになる。本当に必要なのは、人を囲い込むことではない。関係が深まるタイミングを、見誤らないことだ。

市場は、たぶんその後に生まれる。いまはまだ、HOLDでいい。

まずは、会社の外側にいると思っていた人が、いつ、どの瞬間に、内側の人として見え始めたのかを記録するところから始めればいい。

SHIRO & Co.


Published - 20260621